第38章 【忍び寄る魔の手】
今、目にした光景がクリスには信じられなかった。マクゴナガル先生が倒れた。それも5本もの失神呪文が胸に当たって――。
気が付くと、クリスは談話室を飛び出して階段を駆け下りていた。
(嫌だ嫌だ嫌だ、父様の二の舞だけは嫌だ!!)
もしあのままマクゴナガル先生が目覚めなかったら?もし2度と、あの厳しくも優しい声を聞く事が出来なかったら?
廊下を疾走しながら、クリスの頭には悪い予感ばかりが駆け巡った。
玄関ロビーに着くと、校庭の方からハグリッドの吼える声が聞こえてきた。それと同時に聞こえたのが、アンブリッジの声だった。
「捕まえなさい!あの目障りな半巨人めが!!」
「このっ……クソババア!!」
クリスはブナの木の傍に身を隠していたアンブリッジを見つけると、不意を突いて思いっきり顔面をぶん殴ってやった。
アンブリッジはよろめきながら、ローブからサッと杖を取り出した。
「ペトリフィカス トタルス!」
防ぐ間もなく、アンブリッジが呪文を唱えると、クリスの体は一枚岩のように硬くなりその場に倒れた。
クリスがどんなに懸命に身体を動かそうとしても、指一本動かすことが出来ない。足元に伏すクリスを見下ろしながら、アンブリッジはガマガエルそっくりの横に広がった口で舌なめずりをした。
「このクソガキ!私にたて突いた事を後悔させてやる。アーガス!」
「はい、校長先生!!」
アンブリッジが名前を呼ぶと、まるで犬の様にフィルチが現れた。禿げかけた頭を下げ、少しでもご機嫌を取ろうと必死だ。
「この生徒の処罰は、彼方に任せます。お好きになさい」
「なっ、本当ですか!?つまり……」
「ええ、ムチ打ちでも逆さ磔でもお好きな方を」
「あ、ありがとうございます!!」
生徒を懲罰と言う名の拷問にかける、それはフィルチの念願の夢だった。フィルチは意気揚々とクリスの体を担ぐと、自分の事務所に連れて行った。
そこにはいつか使おうと思っていたのだろう、拷問道具が一式揃っていた。悪趣味にもほどがある。そうなじりたくても、言葉どころか侮蔑の視線すら浴びせることは出来なかった。