第35章 【進路相談】
「なあフィレンツェ、この治療って他の人には効かないのか?」
「治療?私はなにも治療をしているつもりはありませんが」
「じゃあ、今私がしているのは?」
「これは貴女自身がもともと持っている力を、取り戻そうとしているだけです。貴女はエルフの血をひいているので、普通の人間より自然界に属するマナの流れを多く汲んでいるのです」
「じゃあ、普通の人には使えないのか?」
「ええ、貴女ほどの効果はありません」
そうか、フィレンツェさえ了承してくれれば、ハリーにもこの課外授業を受けさせようと思ったのだが、効果がないなら意味がない。
クリスは頭を切り替え、この部屋とは思えない自然の中に、自分がもっと溶け込むようにイメージした。
全身の力を抜き、五感を解放し、意識を深く、広く持つように、自然と一体化させる。
そうすると、どこからともなく声が聞こえてくるような気がした。
その声はとても小さく、何を言っているのかまでは聞き取れないが、確かに何かの声がする。
その声を聴こうと意識を集中させると、クリスは突如あることを思い出した。1年生の時、禁じられた森で聞いた素精霊の声。あの時と似ている。
クリスが思わず目を開けると、声はスーッと聞こえなくなってしまった。
「フィ、フィレンツェ!今、確かに何かの声が聞こえたんだが」
「……流石ですね、エルフの血を引いているだけある。貴女ならもしかしたら、ティル・ナ・ノーグにもたどり着けるかもしれない」
「それって……前も言っていた精霊の国だよな?」
「ええ、選ばれし者だけが辿り着くことの出来る神秘の領域。我々の国。貴女には確かに精霊の加護がある。……さあ、今日はここ迄です。また次の満月の日に」
教室を出ても、クリスはしばらくボーっとしていた。精霊の加護――母は私を仕方なく産んだ。だから母が持っていた召喚士としての血は、私を拒んでいるのではないかと心のどこかで思っていた。
だけど、もしもそれが私の勘違いなら……私にも、召喚士としての資格があるのなら……。もっと知りたい。精霊の事、マナの事、人間の手に触れられぬ自然界の事。もっと、もっと、もっと――。