第4章 【大人げない大人】
マンダンガスは横目でチラリとウィーズリーおばさんを見た。おばさんはケーキを人数分に切り分けている途中で、その視線に気づかなかった。
それに気がついたシリウスが、ニヤリと笑った。
「ハリーはマンダンガスに感謝するんだな。こいつが目を離したおかげで、君はディメンターと戦うチャンスが出来た」
「なっ!?」
密かに会話を聞いていたクリスは耳を疑った。
ハリーがディメンターに襲われた事が、まるで幸いであったことのように言うシリウスの顔は、心配した素振りの欠片も見せず穏やかだった。
「君にとっては酷い夏休みだったかもしれないが、私に比べれば10倍もマシだ。少なくとも君は外出することが出来たし、命を懸けた死闘で退屈しのぎも出来た。私は惨めにもこの屋敷に1か月も缶詰で、出来る事と言えばこの屋敷の大掃除くらいだ」
「どうして?騎士団の活動は?」
「忘れたのかいハリー。私は未だ魔法省に追われている身だ。その上私がアニメ―ガスだと言う事はワームテール伝いにヴォルデモートの耳にも入っているから、変身さえできない。だから私が騎士団の役に立てる事は何もない。少なくとも、ダンブルドアはそう考えている」
そうか、クリスは自らこの屋敷に籠っていたが、シリウスは無実の罪で10年以上アズカバンに収容されていた上に、親友の仇も打てずジッとこの屋敷で退屈な時間が過ぎるのを待つだけなのだ。
そればかりかクリスのご機嫌取りまでさせられて、こんな生活に嫌気がささないわけがない。クリスは思わず視線を落とした。
「でも、騎士団に入っているんだから会議には出てるんでしょ?」
気遣うようなハリーの質問に、シリウスは自嘲的に鼻で笑った。
「そうとも。スネイプの奴が命がけで集めた情報を聞いて、この屋敷で危険も冒さず、平々凡々と暮らしているだけの私にアイツが『屋敷の大掃除は忙しいかね』なんて毎回尋ねてくるんだ。とても楽しい会議だよ」
そう言いながら、シリウスはテーブルの下で爪が食い込むくらい力を込めて拳を握っていた。それでいて顔は笑顔だから余計に怖い。