第1章 The summer vacation ~Sirius~
シリウスは暗い部屋をぐるりと見渡すと、先ほどクリスが壁にぶつけて、粉々になったランプの柄を手に取った。
「ひどいな、これは私のお気に入りだったんだけどな」
「…………」
「まあ良い、直せば済むことだ」
そう言って、シリウスは杖を一振りしてランプを綺麗にもとどおりにした。
ランプはほんのりと明かりを灯し、シリウスの顔を照らした。その口元は微笑んでおり、目は優しそうに細めている。そんなシリウスとは対照に、クリスはギラギラとした瞳でシリウスを睨んだ。
ささくれ立った心に、シリウスの優しさを受け止めるだけの余裕なんて一切なかった。今、クリスの心に渦巻いているのは憎悪と嫌悪だった。
「……勝手に部屋に入ってくるな」
「生憎だが、私はこの家の主人でね。入るか入らないかの権限は私にある」
「……プライバシーも何もあったものじゃないな。そうやって私を監視していないと、皆の気が済まないのか?」
「監視じゃない、心配だから入って来たんだよ」
シリウスはゆっくりとクリスに近づくと、ランプを元の位置に置いてベッドの端に腰を下ろした。クリスはそんなシリウスから身を守るかの様に、身体をギュッと強張らせて微かに身を引いた。
「何をそんなに怖がっている?」
「……うるさい」
「君は何か勘違いをしているんだ」
「うるさい!」
「どうしてそう突っぱねるんだ?」
「うるさい!うるさい!!」
クリスはそのやせ細った体からは考えられないほど巨大な怒りを発しながら、体の中を廻る黒い感情に支配された心をむき出しにした。
いつもの美しい姿とは違う、寧ろおぞましい姿。それは生まれてから15年間蓄積してきた、クリスの人生からは切っても切り離せない、まさに真っ黒い心の奥底に住み着いた、もう1人のクリスの姿だった。
血のような真っ赤な瞳でシリウスを睨みつけながら、クリスは唸るように言った。
「……知っていたくせに」
「何をだい?」
「私がヴォルデモートの娘だと、シリウスは知っていたくせに!!だからあの夏の日、私を殺しに来たんだ!!」
手傷を負った野生の獣のようなクリスの目を見て、シリウスはギクリとした。