第34章 【DA危うし!】
「もう良いでしょう、起きて下さい」
フィレンツェのその声で、クリスはハッと目が覚めた。眠るつもりはなかったのだが、いつの間にか寝てしまっていたらしい。
しかしうたた寝をしていたにも拘らず、頭はボーっとするどころか寧ろ気分はスッキリしている。
「あの……何をしたんですか?」
「特に何も。貴女の精神の赴くままにしたまでです。貴女はどうやら自然と密接な関係にあるらしい」
たったそれだけ?と言いたくなったが、流石はケンタウロスの知恵袋。効果は抜群だ。これで今夜はよく眠れるだろう。
フィレンツェは、マナの濁りがとれるまであと数回これを行う必要があると言った。
クリスはフィレンツェにお礼を言い、教室を出た。
時計を見ると就寝時刻まであと僅か。クリスは先生たちに見つからない様、急いでかつ忍び足で廊下を走って行った。
そのフィレンツェとのリラクゼーション効果なのかどうなのかは分からないが、その後のDAの会合で、クリスは初めて杖から火花を出すことに成功した。
これにはクリスだけでなく、ハリーもロンもハーマイオニーも万歳をして喜んでくれた。
だが季節はもう4月に入り、試験まで2カ月しかない。実技試験は相変わらず絶望的だったが、それでも魔力の片鱗が見られたことには変わりなかった。
それからというもの、クリスも他のメンバーともどもDAの会合が楽しみで仕方なかった。
と、言ってもクリスに出来る事と言えば、精々出す火花の色を変えることくらいで、『呪文学』で最初に習う『浮遊の魔法』すら出来なかったが、それでも楽しかった。
しかし他のメンバーが『守護霊の魔法』で銀色に輝くパトローナスを召喚しているのを見ると、やはり少し悔しかった。
これでもし全く魔法が使えないなら諦めもついただろうが、万事が万事そう上手くはいかないものだ。