第33章 【占い学の先生】
ある晩、クリス達が夕食の為に大広間に行こうとすると、玄関ホールの方からガラスを爪で引っ掻いたような叫び声が聞こえてきた。
まるで今まさに誰かが殺されかけているのかと思うくらい、叫び声は常軌を逸していた。
ついにヴォルデモート達が、ホグワーツに乗り込んできたのか。クリス達は、急いで玄関ホールへ向かった。
だが、そこに居たのは『占い学』の教授、シビル・トレローニと、アンブリッジだった。
転がっているトランクを抱え、半狂乱になったトレローニーとは反対に、アンブリッジはガマガエルそっくりな顔で嬉しそうに笑っている。
「さあ、ここはもう貴女の居場所ではありませんよ。諦めてさっさと出てお行きなさい」
「そっ……そんな事……ゆ、ゆ、許されませんわ!!私が、私がこのホグワーツで、16年間どれほど……どれほど献身的に尽くしてきたか――」
「貴女の16年間などこちらは存じ上げません。私は大臣直々に署名された『解雇辞令』に則っているまでですわ」
吐き気を催す邪悪とは、きっとこの時のアンブリッジの事を指すのだろう。
何事かと、集まった生徒たちの前でこき下ろすかのように、アンブリッジは鳥肌が立つ様な甘ったるい声で話した。
「まあまあ、自称占い師がよく泣くこと。貴女は自分がこの様な事態に陥ることが予見出来なかったと言うのかしら?あら失礼、明日の天気さえ視えない貴女に、予見がどうのなんて言っても無駄でしたわね」
大勢の生徒たちの前で馬鹿にされ、トレローニーはさらに声を大にして泣き叫んだ。
クリスは自分の顔が醜悪に歪むのが分かった。――いったいこれは何だ?こんな公開処刑、いったい誰が望んだ!?
クリスの我慢が限界を突破する前に、突如生徒たちの頭の上を通り越す厳しい声が飛んできた。
「そこをお退きなさい!!」
それはマクゴナガル先生の声だった。先生は眉をキリっと上げて、堂々たる態度で生徒たちの間を通り抜けると、トレローニーの傍に寄って、ピンとアイロンのかけられたハンカチを差し出した。
「さあ、これで涙をお拭きなさい。悲観にくれることはありません。誰も貴女をホグワーツから追い出せる人間なんていませんよ」
「あら失礼、マクゴナガル先生。いったい何の権限を持ってそう仰るの?権限を持っているのは――」
「――その通り、儂だけじゃ」