第32章 【真実を告げる雑誌】
ようやくアンブリッジがいなくなると、クリスはネビルがこちらに視線を向けているのに気付いた。
クリスが見つめ返すと、ネビルは誘うように席を立った。クリスもすぐその後を追った。
「……ネビル?」
ネビルは大広間を出た、廊下の先にいた。ぽつんと独りで立って、必死に何かをこらえているようだった。
「私に何か用か?」
「クリス、ねえ本当?君が……『例のあの人』の子供だって」
ネビルにこの質問をされた瞬間、クリスはどんな罰を受けるより辛かった。
だが避けては通れない。それでなくとも、クリスマスの日、ネビルとネビルの両親の姿を見ているのだ。これは自分に課せられた咎だとクリスは感じた。
「うん、本当……みたいだ」
証拠を見せよと左の袖を捲ったが、今はダンブルドアが作ってくれた銀の腕輪がしてあって『闇の印』は見えないようになっている。
「この腕輪の下に、ヴォルデモートが側近に付ける痣があるんだ。『闇の印』――って説明しなくても知ってるか、そんなこと」
クリスは思わず自嘲した。
もしもこんな痣がなければ……。もしも私なんていなければ、もしもネビルの両親が無事で済んでいれば、ネビルはもっと幸せな暮らしが出来たかも知れない。
「ごめん、ネビル。本当に……ごめん」
「君が謝ることじゃないよ」
「でも――」
「ねえ……手、にぎって良い?」
「あ、ああ。構わないが……」
何を思ったのか、ネビルはクリスの左手を、まるで小さな生き物を包み込むかのようにそっと握った。
「あったかいね、君の手」
「……そうか?」
「僕のお母さんの手もね、あったかいんだ。お祖母ちゃんの手も、しわだらけだけどすっごくあったかくってね――」
握られた手に、ぽつり、と涙が落ちた。クリスは一瞬自分のものかと思ったが、それはネビルのものだった。ぽつり、ぽつりと握られた手にネビルの涙が落ちる。
「お祖母ちゃんは、お母さんは僕の事が分かってないっていうけど、僕は、僕は――」
ネビルの声が震えているのが分かったが、クリスは何も言わなかった。
今こうしている瞬間も、自分のこの手を包むぬくもりがヴォルデモートの所為で失われているのだと思うと、クリスは自分の中に流れる血を呪わずにはいられなかった。