第31章 【待ち人】
「ハリー!今週はホグズミードらしいぞ、やったな。どこか行きたい所はあるか?」
「ふ~ん……って!えっ!本当!?今週末!?」
それまで机の上の羊皮紙しか見ていなかったハリーが突然顔をあげ、キョロキョロと辺りを見回した。
しかしその顔は喜びと言うより、鼻の下が伸びて、おまけに照れが見え隠れしている。クリスはちょっと嫌な予感がしたが、念の為訊ねておいた。
「どうした、ハリー?何か嬉しい事でもあるのか?」
「嬉しい事って言うか、その……その日、チョウと約束してるんだ。その……一緒にホグズミードに行こうって」
やはりか、とクリスは肩をすかした。
ハリーの事は嫌いではないのだが、目の前でセドリックが亡くなったのにも関わらず、色ボケ始めたハリーは好きになれなかった。
あまりこの話題に触れたくないクリスは「それは良かったな」とだけ言って談話室を出て行った。
ハリーの一件だけでも胸糞悪いのに、大広間に続く廊下で更に胸糞悪くなる声が聞こえてきた。
例えるなら豚鼻のコウモリが必死に甘えるような甲高い声と言うか……鼻のデカいマントヒヒが媚びるような醜い声と言うか……。
とにかくこの世の物とは思えない公害レベルの雑音が耳に入ってきた。
「ね~えってば、ね~えドラコ?今度の週末、一緒に行ってくれるんでしょ?ホ・グ・ズ・ミ・ィ・ド?」
「ああ、まあ宿題も残りわずかだからな。予定通りなら行けるさ。でも――」
「きゃっ!やったわー!!それじゃあ……約束のキッスしてくれるぅ?」
「公衆の面前で盛るな、ケダモノ」
言ってしまった後で、クリスはハッとなった。廊下の向こう側から、パンジー・パーキンソンとやや困り顔のドラコがこちらに向かってきていた。
パンジーはクリスの顔を見るなり鼻の穴を大きくして憤慨し、ドラコは真っ白な顔で固まっていた。
「何よグレイン!恋人同士の邪魔しないでくれる!?」
「ははは、こやつめ。恋人同士の定義を知らんらしいな。片思いは恋人同士とは言わんのだぞ?」
「あら知らなかったの?私とドラコ、もう正式に付き合ってるの。3日目になるわ」
「……本気か、ドラコ?こんな奴と?」
クリスがドラコに目をやると、ドラコはさっと視線を逸らした。答えはそれだけで十分だった。