第31章 【待ち人】
「なあハグリッド、その、セストラルとか言うのは何を食べるんだ?」
「大抵は生肉だな。あいつらは冬眠なんてしねぇから、冬はこうやって餌をやらねぇと弱っちまう。するとみんな困るだろ、ホグワーツの馬車を引いてくれてるのは奴らだしな」
「なるほど。――って、え?馬車を引いてる?」
「ん?お前ぇさんも見ただろ、ホグズミード駅からホグワーツまでの馬車を引いてるあいつらを」
クリスはぶんぶんと首を横に振った。ハグリッドのみならず、その場にいた残りの3人も不思議そうな目でクリスを見つめた。
そう言えば始業式の日、ハリーが馬車の何もない空間を指さしながら、必死に何かを訴えていた気がする。……そうか、あの時ハリーは馬車を引くセストラルを指さしていたのか。
納得と同時に、なら何故自分にセストラルが見えなかったのか、クリスは疑問とともに不安を覚えた。
父が死んだ瞬間。それは忘れたくても忘れられない程、はっきりと脳裏に焼き付いている。それなのに、セストラルが見えないとはどういうことだろう。
……もしも、もしも父は死んだと思い込んでいるだけで、実は死んでいないのかったら。あの閃光は「死の呪文」ではなく、「失神呪文」か何かの類だったら……。
そう考えると、クリスの心臓の鼓動が早くなり、指先が震えてきた。
――父様が生きていたら――父様が生きていたら。
真っ白な頭でその言葉を繰り返しているうちに、当初の目的の場所に着いた。
そこは禁じられた森の中ほどで、少し開けた場所だ。ハグリッドが独特な口笛を吹くと、翼の音と共に何かがそばに降りてくる気配がした。
「よーし、それじゃあ分担しよう。ハリーはロンと、クリスはハーマイオニーと組んでこいつらに餌をやってくれ。餌はこの袋に中に入ってる」
分担させるということは、それなりに数がいるのだろう。だがなんとなく気配は感じるものの、姿は全く見えず、戸惑いながら袋から生肉を取り出し、ハグリッドやハリーの真似をして地面に生肉を置いた。
「……ハーマイオニー、見えるか?」
「見えないわ。でも貴女は――」
「見えないんだ、私にも」