第30章 【心の拠り所】
アズカバン集団脱獄のニュースは、瞬く間に生徒の間に広まった。
廊下のあちこちで、誰の親戚が『死喰い人』に殺されたとか、このホグワーツの近くにもシリウス・ブラック同様、脱獄した『死喰い人』が潜んでいるんじゃないかと噂が飛び交った。
生徒たちのみならず、先生たちもよくこの話題を口にしていた。
クリス達は、魔法省のこの失態をアンブリッジがどう恥じるのか楽しみにしていたが、アンブリッジは恥じるどころか新しい教育令を出して、この話題を封じるという手段を取った。
【ホグワーツ高等尋問官令】
教師は、自ら教鞭をとっている科目に順ずること以外、生徒に情報を与えてはならない。
この教育令を見た時、クリスはアンブリッジに対して嫌悪を通り越して呆れ始めてきた。
ここまで規則でガチガチに固めなければ統括できないなんて、力不足を自ら示しているようなものだ。それにこんな規則があったところで、抜け道なんていくらでもある。――そう、例えばDAの会合などだ。
数日後、ハリーは早速DAの会合を開くと言い出した。アズカバンから10人もの脱獄囚が出たという危機感を、少しでも皆に理解してもらう為だ。
今や生徒達の間で、アズカバン脱獄のニュースを知らない者は居なかったが、あの教育令の下では、先生達でさえ表立って話すことが出来ないのが現状だった。
「やっぱりハリーやダンブルドア先生の言う通りだったんだわ!」
『必要の部屋』に入るや否や、アンジェリーナとケイティが声高に話し始めた。
他のメンバーも「そうだ、そうだ」と口をそろえている。あのザカリアスという反抗的な少年でさえ、今はその生意気な口を閉ざしていた。
皆に認められて、ハリーの顔に久しぶりに笑顔が戻った。長い間不信感を持たれていたのだから、こればっかりは仕方がない。
だがチョウ・チャンが熱のこもった目でハリーを見つめているのに対し、鼻の下を伸ばしているハリーを見るのはあまり面白いものではなかった。
クリスはいつも通り部屋の隅を陣取ると、チョウとハリーの方をあまり見ない様にした。