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ハリー・ポッターと沈黙の天使

第30章 【心の拠り所】



 その日の授業が終わると、クリスは月一回の通院の為に医務室を訪れた。
 中ではもうマダム・ポンフリーが支度を終えて、煙突飛行の準備していた。
 エメラルドグリーンの炎に包まれ聖マンゴ病院に到着すると、何故か病院内はバタバタしており、あちこちで噂話をする患者の声で溢れていた。
 いったい何事かと、クリスは近くにいた癒者をつかまえて訊ねた。

「あの、何かあったんですか?」
「新聞を読まなかったのかい?あぁ、まあ、記事の大体は脱獄事件ばかりだったからね。それが……言い辛いんだが事故が起こってしまって……我々はその対応で手いっぱいなんだ」

 確かに、いつもは見ない記者やカメラマンが、こぞってたむろしている。
 クリスが待合室の新聞を広げてみると、どうもそれらしき記事を見つけた。
 アズカバンの脱獄事件があった所為で記事自体は小さいが、そこにはブロデリック・ボードという患者が、鉢植え植物に首を絞められて病院内で死んでいるのが発見されたとハッキリ書かれていた。

 アズカバンからの脱獄、病院内での不審な事故――。
 クリスはなんだか自分たちの見えない所で、どんどん闇の気配が迫ってくるような恐怖を覚えた。


「どうしたんだい、クリス?なんだか今日は緊張しているね」

 主治癒のバーニー先生が、ヒーリング治療をしながら優しく尋ねた。いつも治療中は目を閉じて深呼吸をする事、そしてリラックスする様にと言われていたが、今のクリスにとってそれは難しかった。
 目を閉じても自然と眉間にしわが寄るし、肩の力はどうやったって抜けない。先生は治療を続けながらも「やれやれ」と小さく息を吐いた。

「きっと病院内での事故に関する記事でも読んだんだね?それとも、脱獄の記事かな?」
「……両方です」
「なるほど。いやはや、年頃の子の心は本当にデリケートだ」
「先生は、怖くないんですか?その……人の死が」
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