第30章 【心の拠り所】
「そう言えば、この腕輪をもらってから殆ど痛まなくなったな」
「それって、元々はダンブルドア先生からの贈り物なのよね?」
「ああ。先生曰く、この腕輪には魔力を封じる効果があるらしい」
「ハリーの傷にも、その腕輪と同様の物が作れないのかしらね。そうすれば無理に閉心術を学ぶ必要もなくなるのに」
それが出来れば苦労はしないだろう。ハリーの傷と自分の腕の痣は、同じくヴォルデモートが刻んだと言ってもやはり似て非なるものだ。
クリスとハーマイオニーがそんな会話をしていると、ロンが男子寮から神妙な顔をして降りてきた。その表情から、あまり良い知らせではないみたいだ。
「どうしたんだ、ロン?」
「どうもこうも僕が寝室に入ったら、ハリーが床にのたうち回りながら笑ってたんだ。それも普通じゃない、僕のパパが襲われた時と同じ感じだった。ハリーが言うには『例のあの人』にとって、何か良い事があったって」
ロンの言う通り、ヴォルデモートにとって喜ばしい事――つまりクリス達にとっては望ましくない事が起きたと分かったのは、その翌朝だった。
『日刊預言者新聞』の一面に、写真付きで大きく取り沙汰されていた。見出しはこうだ。
【アズカバンから集団脱獄~シリウス・ブラックの悪夢襲来~】
「チッ、とうとう起こったか……」
ダンブルドアが危惧していた事態が、ついに起きてしまった。
ハーマイオニーが記事を読み上げている間、写真に載っている10人もの悪人面した魔法使い達が、嘲りながらクリス達に向かって怒りを煽ってきた。
その中でも特に印象的だったのが、長い黒髪に薄い唇、大きな眼をした魔女だった。
脱獄囚の中で、ただ一人の女と言う理由だけではない。なんとなく、クリスはその魔女から目が離せなかった。
すると、ハリーが小さくクリスをつついた。
「クリス、覚えてる?この魔女……1年前、校長室の『憂いの篩』で見た奴だよ」
そこまで言われて、クリスはハッと思い出した。
そうだ、確かクラウチJrと一緒に裁判を受けていたあの魔女だ。数人の魔法使いと共に、ネビルの両親を正気を失うまで拷問した罪に問われていたはずだ。
ネビルがこのニュースを知ったら、どう思うだろう。それを考えると、クリスは喉に鉛が詰まったように息苦しくなった。