第24章 【Love ∞ destiny】
追いかけてくるドラコの声を無視し、階段を上って肩で息をしながら『太った婦人』に合言葉を言って談話室に入る。ソファーにはいつもの様にロンとハーマイオニーの姿はあったが、ハリーの姿だけがなかった。
「どうしたの、クリス?……泣いてるの?」
「えっ?」
ハーマイオニーに言われて頬に手をやると、クリスはやっと自分が泣いている事に気づいた。
悲しかったわけではない。ただ感情が高ぶって抑えられなかった。クリスはその場で深呼吸を繰り返し、やっと冷静さを取り戻した。
「……しまった、本を落としてきたままだ」
「本なんかどうでも良いよ!誰に泣かされたんだ!?まさかザカリアスって奴か!?」
「いや、違う。その……まあ、あれだ。事故だ」
「事故?」
「図書館の帰り道、人にぶつかって……その衝撃で、だな」
嘘はついていない。ただ色々と重要なことを無視している事は自覚していた。まさかドラコに抱きしめられて泣いて逃げてきたなんて2人に知れたら、大変な騒ぎになると思ったのだ。
しかし、さらに大変な騒ぎがハリーの登場とともにやって来た。まるでトレローニー先生の様に蚊の鳴くような声がしたと思ったら、ハリーが談話室の入り口をのろのろとよじ登って来た。
見るからに放心状態で、クリスの事など些細な問題だった。
「どっ、どうしたのハリー!?」
「僕……」
しかし、ハリーはそれ以上何も言おうとしなかった。と、言うより何も言えなかったという方が近い。まるで自分の身に何が起こったのかよく分かっていないようだった。
同じようなことがクリスにも当てはまった。なぜあんな行動を取ったのか、こんな感情を持ったのか、自分自身でも説明がつかない。
ハリーはクリスの傍を通り過ぎ、よろよろと一人掛けのソファーに座ると、ボーっと空中を見つめた。
「ねえ、何があったの?2人とも」
「私はさっき言っただろう、事故だ、事故」
「僕は――」
「チョウなのね?」
まるでハリーの心中を読み取ったかのように、ハーマイオニーが言った。ハリーは相変わらずボーっとしていたが、やがてこくりと頷いた。