第20章 【醜い手】
「……トレローニーか、魔法省が連れてくる後任か……難しいところだ」
大広間での夕食を終え、談話室でくつろいでいる時も、クリスはずーっとこの問題について考えていた。
もちろん、ハリー、ロン、ハーマイオニーの3人は、こんな下らない問題に頭を悩ませるより、今日出された宿題に頭を悩ませていた。
「君、余裕だな」
今日出された『魔法薬学』の宿題に手こずっているロンが、あきれたような声で言った。
「うむ、自分より不幸な人間がいるって思ったら、結構人間余裕が持てるみたいだ」
確かにホグワーツに来てからを考えると、今が一番気分が良い。自分より不幸な人間がいるというのは、もしかしたら幸せな事なのかもしれない。
クリスが人の不幸を餌にあれこれ悩んでいると、アンジェリーナが人生で一番不幸だと言う顔でテーブルに近づいてきた。
「ハリー、ロン……今夜のクィディッチの練習は無しよ」
「えっ!?なんで!?僕、何もしてないよ!?」
「アンブリッジ先生が、許可を出してくれなかったの。考える時間が必要だって……」
アンジェリーナはそれだけ言うと「ハア~」と大きなため息をついて幽霊のように去っていった。
ハリーとロンは顔を見合わせ一瞬固まると、同時にドンッと机を叩いた。その拍子に、ハーマイオニーのインク瓶が倒れた。
「ふざけてる!スリザリンには許可を出したくせに!」
「僕たちを焦らして楽しんでるんだ!あのクソババア!!」
「まあ、良いじゃない。これで今夜はゆっくり宿題ができるから、徹夜しなくてすむじゃない」
「「徹夜とクィディッチだったら、徹夜のほうが100倍マシだ!!」」
当たり散らされたハーマイオニーが助けを求めるようにクリスを見たが、クリスは肩をすくめただけだった。
それから4人で大人しく――時折イラついたハリーとロンが勢いよくインクを飛ばしてきたが――宿題を続けた。
今夜はシリウスが暖炉に現れる事になっているから、どちらにせよ夜中まで談話室にいなければならない。ほかの生徒には出来るだけ早く自分たちの部屋に戻って欲しかったが、運悪くフレッドとジョージが『ずる休みスナックボックス』の1号を完成させたらしい。
リーと3人一緒になって実演して談話室を大いに賑やかせている。それを見て、ロンが不思議そうに訊ねた。