第19章 【toraitr】
「碌でもない遺伝子を増やす前に、使いものにならなくしてやろうと思ったが……力加減が甘かったか」
「……う゛ぅ、クリス……」
「ついでに言っておくが、貴様の元許嫁も今は聖マンゴに通う患者だ。言葉には気をつけろ」
そう冷たく言い放つと、クリスはローブを翻し教室へと入って行った。
しかし入った先の教室の隅を見て、思わず「うっ」と声を上げた。そこにはあのアンブリッジが座っていたのだ。
手にしたクリップボードを見るに、どうやら『魔法薬学』の査察に来たらしい。
ただでさえイラついているのに、この女の前で厄介な調合をするとなると骨が折れそうだと思った。
「あら皆さん、こんにちは」
クリスの後に入って来た生徒数名が、アンブリッジに返事をした。
アンブリッジはいつもの様に花柄の趣味の悪いワンピースに、ピンク色のカーディガンを羽織っている。それが薄暗い教室に驚くほど不似合いだった。
「全員席に着け」
スネイプが教室に入って来て、不機嫌そうに言った。スネイプはアンブリッジに気づいているだろうに、チラリとすら視線を送らない。
スネイプとアンブリッジ、どちらも最悪の先生には変わりないが、その性質はまるで違う。
いったいどちらの方が勝るのか、ここは気になるところだった。
「今日は引き続き『強化薬』の調合を行う。前回の授業で諸君らの作った『純化剤』が正しく熟成されているならば――まあ吾輩の見立てでは3割ほどの人間しか成功していないが――さして難しいものではない。説明は黒板に書いてある。では始めろ」
自分たちが調合した『純化材』を受け取ると、みんな一斉に黒板を頼りに調合を始めた。
今のところアンブリッジは大人しくメモを取っているだけだ。しかし、いつスネイプを質問攻めにするのか気になって、調合に中々集中できなかった。
クリスの視線はチラチラとアンブリッジとスネイプを追ってしまい、危うく『強化薬』の調合を失敗しそうになった。
「さて……ご質問ですが、貴方はこのホグワーツで教えて何年になります?」
「14年だが」
クリスが耳をそばだてていると、2人の会話の内容が少しだけ聞こえてきた。この時ほど双子の発明した「伸び耳」があればと思ったことはない。
クリスは調合を続けながらも、耳を大にして会話を盗み聞きした。