第19章 【toraitr】
「私の調査に間違いがなければ、最初は『闇の魔術に対する防衛術』の職を希望なさったんですわよね?」
「左様」
「でも、ダンブルドア校長に断られたと」
「それが何か?」
「赴任以来ずっと『闇の魔術に対する防衛術』を希望していたが、上手くいかなかった理由として考えられる要素はあるかしら?」
「吾輩の口からはなんとも」
スネイプがイライラしたような口調になると、アンブリッジはにっこり笑ってさらさらとボードに何か書き留めた。
質問は終わったとみたのか、スネイプは生徒たちの間を回って、意地の悪い目で大鍋の中を見物し始めた。
アンブリッジも、生徒たちのテーブルを回り、スネイプや授業に対して2、3質問をしていた。
もうこれ以上耳をそばだてても意味はないだろう、クリスは調合の最終段階に入った。
チャイムが鳴る10分前、クリスの大鍋には透き通った水色の液体が出来上がっていた。
その後ろのハリーの大鍋からは、シューシューと黒い煙が立ち上がり、ゴムを熱して固めたような酷い薬がなべ底にこびり付いていた。
「さて、またも失敗かポッター」
ハリーを虐める時、特有の意地の悪い声を出しながら、スネイプはハリーの大鍋の底にこびり付いた薬を、杖一振りで綺麗に消し去った。
「何故こんな失敗を犯したのか、正しい調合の方法と合わせてレポートにまとめて提出したまえ。それ以外の生徒は薬を瓶に詰めて提出。以上、解散!」
スネイプの言う通り薬を提出用の瓶に詰めながら、クリスはふとあることに気づいた。
スネイプがホグワーツで教鞭をとって14年――奇しくもヴォルデモート失脚と同じ年だ。
1年前、校長室の『憂いの篩』で見た裁判ではスネイプが『死喰い人』ではないと証言されていたが――もし、もしもヴォルデモート失脚と同時にダンブルドア側に寝返ったのだとしたら……その可能性は決してゼロではない。
クリスは教壇に薬を提出する際、チラッとスネイプの顔を見た。しかしその顔からは、何一つ窺う事の出来ない仮面のような表情だった。