第18章 【抉られた傷跡】
店内はいつも通りホグワーツの生徒であふれていた。皆楽しそうにバタービールを片手に雑談している。今が仮初めの平和だと思っている人物は誰もいないみたいだ。
それも当たり前なのかもしれない。ヴォルデモートが復活したという話しを一から十まで信じているのは、少数の人間だ。
大抵はこんな風に、自分とは切り離されたフィクションとして受け止めているのだろう。
そう思うと、クリスはたった独り、別の世界に身を置く住人の様な孤立感を覚えた。
(セドリック……)
クリスは心の中で彼の人の名を呟いた。
この酒場で、セドリックが仲間に囲まれていたのを見たのはどのくらい前だろう。
彼が居なくなってまだ数カ月しか経っていないのに、生徒たちはもう明るさを取り戻している。
人が死ぬと言うのは、そんなに簡単な問題なのだろうか。
「あ~ら、そこにいるのはクリス・グレインじゃない」
人が感傷にふけっていると、どこからともなく耳障りな声が聞こえてきた。この人の神経を逆なでするような癇に障る声。振り返らなくても分かる、パンジー・パーキンソンだ。
「……何の用だ?」
クリスが睨みつけると、パンジーは「あ~ぁ、怖い」と言いながら笑顔で返してきた。
「珍しいじゃない。今日はいつものお仲間は一緒じゃないの?」
「お前こそ珍しいな、いつも金魚の糞みたいにドラコの後ろにくっついてるのに。遂に愛想もつかされたか?」
「愛想をつかされたどころか、貴女のおかげで最近、私にも希望が見えてきたのよ」
どういう事だ?と疑問に思うと同時に、パンジーが周囲に聞こえないようクリスの耳元で小さく囁いた。