第18章 【抉られた傷跡】
「正直、ダンブルドアだけじゃ証拠にならないんだよ。先ずは僕たちを納得させるだけの証拠を持ってきてほしいな。ホラ話だけじゃなくてさ」
「……ホラ話だって?」
クリスは自分の中に怒りがふつふつと湧いていくのが分かった。
何か勘違いをしているこの傲慢なザカリアスという少年に対し、クリスはハッキリ嫌悪の情が芽生えた。
「だってそうだろ?ダンブルドアが先学期話したのは、セドリック・ディゴリーが『例のあの人』に殺された事と、君がホグワーツまでディゴリーの亡骸を運んできた事だけだ。噂じゃそこにいるグレインって奴もその場に居たって話しだけど、これだって噂の域を出ない。僕たちは魔法を学ぶ前に、ある一定の情報を共有しなきゃいけないじゃないのかい?」
突然ガタン、と椅子が倒れた音がして、皆の視線が一点に集中した。
そこには身体から発する炎のようなオーラとは裏腹に、酷く静かな怒りを瞳に秘めたクリスが立っていた。
――ようやく分かった、なぜこんなに大勢の生徒が集まったのか。それはみんな純粋に『闇の魔術に対する防衛術』を学びたいんじゃない。ただ噂の真相を突き止めたいという野次馬根性丸出しでやってきたにすぎない。
それが当事者の――ハリーとクリスの傷をどれほど抉るのかも知らないで。
クリスは怒鳴る代わりに、右手にぐっと力を込めた。
「……バカバカしい、私は帰る」
「ちょっと待って、クリス!」
ハーマイオニーの制止も聞かず、クリスはパブの外に出た。
しかし出てきたは良いものの、行く当てなんてどこにもなかった。暫くホグズミードの町を見て回ったが、どこに行くにも楽しそうに笑うホグワーツの生徒であふれていて、なんとなくクリスは居心地が悪くなってきた。
早く帰りたいが、帰りの馬車はまだ到着していない。仕方なく、クリスは『三本の箒』に入って時間を潰すことにした。
「いらっしゃい、ご注文は?」
「……バタービール」
店に入ると、脚線美がまぶしい女主人のマダム・ロスメルタが注文を聞きに来た。
クリスは代金を払うと、運ばれてきたバタービールには口もつけずに、目の端で辺りを見回した。