第2章 【癒せぬ傷】
クリスはマクゴナガル先生が入れるよう扉を引くと、混乱した頭で、いったい何を渡されるんだろうと考えた。
まさかバースデープレゼントというわけでもないだろう。今日誕生日なのはクリスではなく、ハリーなのだから。
先生は部屋を見渡すと、杖を取り出して明かりをつけた。普段あまり照らされることのない部屋に明かりが灯ると、それまで気にしていなかった部屋の汚れや埃が目立って見える。
クリスはこんな事なら、最初に自分の部屋を掃除しておけばよかったと後悔した。
「あのっ、他の部屋は掃除をしているんですけど……ここはちょっと後回しになっていて……」
クリスのよく分からない言い訳を、マクゴナガル先生は眉一つ動かさず黙って聞いていた。
「気にしていません。それよりもミス・グレイン、左腕を出してください」
「え?」
「聞こえませんでしたか?左腕です。貴女の左腕」
そう言われて、クリスはおずおずと左腕を先生の前に差し出した。ここに来てから、あえて左腕は見ない様にしてきた。
いや、ここに来てからではない。正確に言えば、あの日からだ――。
「……やはり、まだ消えてはいませんね」
その言葉に、なんて返答すればいいか分からなかった。あの日、全てを知ったあの日から避けてきた『闇の印』は、クリスがヴォルデモートの娘だと言う確かな証拠だ。
こんなもの、見ないで済むなら一生見たくはない。そんな事先生だって分かっているはずだ、それなのに……。クリスは自分の眉間に皺がよるのを感じた。
マクゴナガル先生は、ふっと息を吐くとローブから箱を取り出した。中を開けると、不思議な模様の描かれた銀色に光る大きな腕輪が入っていた。