第16章 【トレローニーに同情した日】
『占い学』の授業では絶対に寝てやるぞ、と心に決めていたクリスだったが、教室に入って絶句した。
いつもの様に薄暗くて蒸し暑い『占い学』の教室のど真ん中に、趣味の悪い花柄のハンドバッグを持ったアンブリッジが、トレローニーの隣でニコニコ笑って立っているではないか。
ここでも眠れないのかと、クリスは小さく舌打ちした。
「こんにちは、皆さん。今日はとっても良い天気ね!先生の事は気にせず、いつも通りの授業をしてちょうだい!」
「……皆様、今日は予兆的な夢のお告げについて学びます。では教科書を配りますから、席について心を鎮めて下さい」
まるで自分がこの教室の主であるかのように、アンブリッジが堂々と第一声を放った。
トレローニーはそれが面白くないのか、いつもの神秘的な――もとい蚊の鳴くような――声に少しだけ緊張が見られた。
最近見た夢を言い合う為、先生は二人一組にし、ハリーはロンと、クリスはネビルと組んだ。
「ねえクリス、最近どんな夢見た?」
「夢……ねぇ。あんまり見ないな。ネビルは?」
「僕はね、朝起きた瞬間は覚えているんだけど、すぐ忘れちゃうんだよ」
だから夢日記もそんなに進んでいないと言うネビルは、それでも一生懸命に最近見た夢を思い出して、教科書を頼りに解き明かそうとしている。
ネビルはあまり勉強のできる方ではないが、こう真面目で一生懸命な姿は素直に好感が持てる。
ネビルと一緒に今日見た夢からどんなお告げがあるのか話し合っていると、クリスの後ろをトレローニーが通った。
その背中にはアンブリッジがぴったりとくっ付いている。手にクリップボードを持ち、何かトレローニーに向かって質問している様だ。
「それで、貴方はこの職に就いて何年になりますの?」
「……16年ですわ」
トレローニーは不機嫌さを隠しもせず、仏頂面で短く答えた。トレローニーとしては魔法省の役人だか何だか知らないが、こんな俗物に『占い学』の崇高なる教えが分かるものかと思っているんだろう。
対してアンブリッジは、いつものガマガエルそっくりの笑顔で質問を繰り返していた。