第16章 【トレローニーに同情した日】
「それでは、ダンブルドアが直々に貴女を雇った事に間違いはありませんか?」
「ええ、確かに」
「こちらの資料によりますと、貴方はあの有名な『予見者』カッサンドラ・トレローニーの曾々孫にあたると?」
「そうですわ」
「しかし、こう言っては何ですが、貴女はカッサンドラ以来、初めての『第二の眼』の持ち主だとか……」
「こっ……こういうものは隔世しますの。私は――そう、私は世代を超えて力を授かったのです」
明らかにトレローニーは動揺していた。
だが知らなかった、意外にもちゃんとトレローニーの家族に「力」を持った人がいたなんて。全くのインチキババアだとばかり思っていたのに。
しかしアンブリッジは笑ったまま、何かをクリップボードに書き記してこう言った。
「なるほど……それでは、わたくしの為に何か予言してみて下さいます?」
「い――今、何と?」
「ですから、わたくしの為に予言を1つお願いいたします」
教室中の生徒の目が、トレローニーとアンブリッジを見つめていた。
これだけの証人がいる中、調子っぱずれな予言なんて出来ない。が、一応占いの教師としてのプライドもある。
トレローニーは明らかに動揺していたが、やがてアンブリッジと距離を取ると、いつもの様に手をぶるぶる振るわせ、まるで何かがのりうつった様な芝居を始めた。
「あ……ああ、ああああ……視える、視えますわ。貴女の背後に忍び寄る……これは、暗い……恐ろしい危機が、迫って――」
トレローニーの胡散臭い演技もなんのその、アンブリッジはニコッと笑うとクリップボードにさらさらっと書き留めた。
「まあ、それが精一杯と言うところですのね」
そう言うと、暗い部屋の中でも分かるくらいトレローニーの顔が真っ赤に染まった。
それから授業が終わるまで、トレローニーは生徒たちの夢日記を、誰かれ構わず恐ろしい預言書に仕立て上げて鬱憤を晴らした。
やっと授業が終わるベルが鳴ると、トレローニーは暖炉脇にある肘掛け椅子にドカッと座り、口をへの字に曲げ、ツンとそっぽを向いてアンブリッジが出ていくのを見ないふりをした。
クリスはトレローニーに決して好感を抱いている訳では無かったが、敵の敵は友、とも言うのだろうか。ちょっとだけトレローニーに対して同情する自分がいた。