第2章 【癒せぬ傷】
ハリーは今、魔法界を混沌の渦に落とし込んだ闇の魔法使い、ヴォルデモートの仇として、闇の陣営から命を狙われているのだ。
一応ハリーには護衛が付いているらしいが、それだってどれだけ役に立つか。
「なあ、今すぐハリーをここに呼ぶ事は出来ないのか?ディメンターに襲われたなんて普通じゃない!!」
「私もそうしたいのは山々だが、ハリーは誕生日まであの家に居ないといけないんだ」
「どうしてだ?ここじゃダメなのか!?」
「ダンブルドアの言いつけなんだ、分かってくれ」
ダンブルドアの名前を出されては、クリスは何も言えなかった。今自分がこうして安全な場所にいられるのは、全てダンブルドアの計らいのお蔭だ。そのダンブルドアに対して、どうこう言える立場ではない事は重々承知している。
「誕生日が……誕生日が来たらハリーはここに来られるのか?」
「ああ、そのつもりだ」
「じゃあ、それまでは大人しくしている」
その晩、シリウスと同じベッドで眠りながら、クリスはハリーの事を思った。今、ハリーはどうしているだろう。寂しくて泣いていないか、傷が疼いて苦しんでいないか、たった独りで震えていないか。
ハリーの事を考えると、心臓がギュッと握りしめられたような気分がした。
こんな時、以前だったら母様から受け継いだ召喚の杖があったが、今は無い。あの時父様と一緒に墓場に置き去りにしたままだ。
しかし、今となってはその方が良かったのかもしれない。自分が望まれて生まれてきたわけじゃないと知った今では、あの温もりに触れても自己嫌悪しか感じない。それだったら――
(今のままの方が、良い……)
傍に居るシリウスの温もりを感じながら、クリスは静かに目を閉じた。