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ハリー・ポッターと沈黙の天使

第13章 【PMCS】


「さあ、戻りましょうミス・グレイン」
「あの……先生。私、どうすれば……保護者もいませんし、病院代も……」
「そんな些末な事は気にしなくてよろしいですよ。とにかく、今後の事を校長先生とお話しなくてはなりません」

 マクゴナガル先生はロビーの大きな暖炉に煙突飛行粉をひと摘み投げ入れた。途端に赤い炎がエメラルドグリーンに変わった。
 その炎をくぐりぬけると、再びマクゴナガル先生の執務室に戻って来た。それから廊下を走るように早足で駆け抜け、ガーゴイルの像の前でマクゴナガル先生が立ち止まった。

「ホッピング・シャワー」

 合言葉を唱えると、ガーゴイルの像が動き、上へ上へと続く螺旋階段が現れた。
 マクゴナガル先生の後に続いてクリスも螺旋階段を上り、やがて大きな樫の扉の前で立ち止まった。扉には真鍮のドア・ノッカーが付いており、先生はそれを3回鳴らした。すると扉がひとりでにゆっくりと開いた。

「失礼します、ダンブルドア校長。ミス・グレインをお連れしました」
「おうおう、待っておったぞミネルバ。して診断は?」
「癒者が仰るには、心因性魔術回路収縮症候群。PMCS言う症状らしいです」
「なるほど……さして珍しい病気でもない。なに、年頃の魔法使いがかかりやすい比較的ありきたりな病状じゃ」

 ダンブルドアの口ぶりでは、まるで麻疹の様なかかりやすい病気だとでも言いたげだった。優しげに笑いながら、ダンブルドアはゆっくり自分の長いひげをなでた。
 半月型の眼鏡の奥で、ブルーの瞳が深い優しい色を湛えている。それを見ていると、クリスは魔法が使えなくなったというショックから、初めて安心という言葉を取り戻した。と、同時に色々なことが頭の中に舞い戻って来た。

「先生、でも魔法が使えなくなったという事は、『O・W・L』試験はどうすれば良いのでしょう?あれには実技試験もありますよね?それに授業にも大幅に遅れが出てしまうと思うのですが……」
「授業に関しては心配無用じゃ、各先生方にはわしから連絡しておくのでな。試験は――そうじゃのう、それまでに魔法を取り戻せるよう努力するしかあるまい」
「……そ、そんな簡単で良いんですか?」

 ダンブルドアが風変りなのは知っていたが、まるで試験の結果など気にするなと遠回しに言われているようで、クリスは呆気に取られてしまった。
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