第13章 【PMCS】
「大丈夫です。今は何らかのストレスで魔術回路が収縮して、魔力が全身に行き届かなくなり、魔法が使えなくなっているだけですので。まずはこの病気は原因であるストレスを無くすこと。それに毎日魔術回路に魔力を流すよう訓練する事です。そうすればきっとまた魔法が使えるようになります」
「その訓練法とは?」
「簡単です。術の成功を問わず、とにかく魔法を使い続ける事です。そうすることで、いずれストレスで収縮した魔術回路が押し広げられ、また魔法が使えるようになります。例えれば……そうですね、細くなった管に勢いよく水を流すイメージです」
ぼんやりと、クリスは自分の両手を見た。この指先まで通っていると言われる魔術回路。そこに魔力と言う名の水を流す。
確かに言うのは簡単だが、実際に杖を握っても何の感触もない、あの不安感。それを思い出すだけでクリスは胸にぽっかりと穴が開いたような気がした。
「……ところで、魔法が使えなくなった原因として心当たりはありますか?」
「それは――」
思い当たることが山の様にあって、ハッキリどれとは言えなかった。セドリックの死、クラウスの死、自身の出生――。
数か月前、あの墓場での出来事が今でも瞼の裏に焼き付いて離れない。クリスが目を伏せ口を閉ざしていると、癒者がクリスの手を握った。
「無理に言おうとしなくても良いですよ、大丈夫。当面の間、うちでヒーリング診療を続けましょう。学校の方も忙しいと思うので、取りあえず1か月に1回、欠かさず来て下さい」
それでは、と言ってクリスとマクゴナガル先生は部屋を出た。
廊下に出ると、待合室には色々な人がいた。それこそ何の変哲もなく『週刊魔女』を読んで時間をつぶしている人もいれば、体中毛で覆われた雪男の様な人もいる。
他にも緑色の肌をした、明らかに酷い皮膚病の人や、頭から細長い2本の角を生やした老人がゆっくり歩行器を使って歩いている。
クリスはこんな奇人変人達と自分が同じだとは思いたくなかったが、ある意味ではクリスの方がよっぽど重症なのだと思うと気が滅入って来た。