第12章 【LOST】
これまで、セドリックの死について、ハリーと語り合った事はない。それどころか、クリスにとってセドリックがどんな存在だったか教えた事すらない。
クリスは軽く目を閉じ深呼吸をすると、感情的になっていた自分をグッと抑え込んだ。
クラス中の視線が、ハリーに注がれていた。対してアンブリッジは、ハリーの眼を見ようともせずあっさりこう言って見せた。
「セドリック・ディゴリーの死は『対抗試合』中に起きた悲しい事故です」
「違う!ヴォルデモートに殺されたんだ!!」
とうとうハリーの怒りが爆発した。当たり前だ、ヴォルデモート復活の現場にいた、その事を嘘つき呼ばわりされるのと訳が違う。人一人の死を、お役所仕事と一緒に処理されたのだ。
人の命がそんなに軽いものであるわけがない。それはハリーが1番良く知っている。
「ヴォルデモートが復活したあの日、あの晩、セドリックが殺されたんだ!他の誰でもないヴォルデモート本人に!!それを魔法省は何を恐れているのかひた隠しにしようと――」
「そこまでです、ミスター・ポッター」
アンブリッジは再びガマガエルの様な顔でニターっと笑うと、カバンの中からピンク色の羊皮紙を取り出し、インクをちょんちょんと羽ペンに浸し何かを書くと、小さなメモ書きの様なものを作った。
「さあ、これを持ってマクゴナガル先生の所へ行ってらっしゃい」
ハリーは奪うようにメモ書きを受け取ると、椅子を蹴飛ばし、怒りをあらわに教室を横切って行ってしまった。
「ささ、皆さん授業に戻りましょう。教科書5ページの『初心者の基礎』を――」
「失礼、ミセス・アンブリッジ」
失礼などとは全く思っていない声が教室に響いた。こんな事をやってのける人物はそう多くはない。そう、他の誰でもない、クリスだ。
クリスは両足を机の上に乗せた反抗的態度のまま、一応ではあるが手を挙げていた。