第12章 【LOST】
ロンはその長い腕を十分に活かし、ピシっと手を挙げた。しかしアンブリッジは見事にそれを無視した。
だが振り返った先には、同じように手を挙げている生徒が何人かいた。仕方なく、アンブリッジはディーンを指した。
「貴方のお名前は?ミスター……」
「トーマスです。ディーン・トーマス」
「それで?貴方は何が聞きたいの?」
「つまり、ハーマイオニーの言う通り防衛呪文が習得できないと……その、もし襲われたとき、どうやって自分の身を守ればいいんでしょう?」
「おほほ、貴方はこのクラスで誰かに襲われる心配があると?」
「いえ、でも万が一――」
「万が一でも、突然クラスが襲われる心配などありません。まあ、この学校のやり方を批判したくはありませんが、以前勤めてらした先生方に、生徒を襲う危険のあった『半獣』がいたことは確かですが――」
『半獣』と言うアンブリッジの言葉には、確かに侮蔑的なニュアンスが含まれていた。それを聞いた瞬間、クリスの決して太くない堪忍袋の緒がブチリと切れた。
「ルーピン先生の事を言っているのなら、鏡を見てから出直せこのガマガエルが!!」
「グリフィンドール10点減点!!」
アンブリッジがグリフィンドールから10点減点すると、キレたクリスは返事もせず、ドカッと椅子に座り直し、両腕を組んで怒りのまま両足を机の上に投げ出した。
クリスは赤い独特の瞳で射殺すほど鋭くアンブリッジを睨みつけていたが、口だけはぐっと堅く結んでいた。
「いいですか?先ほども言いました通り、皆さんは色々な先生に教えられ、とてもではありませんが魔法省の規定水準をはるかに下回っています。これからはわたくしの教えを魔法省の教えとし、きたる『O・W・L』試験レベルまで引き上げます。今までは皆さんは学校の教えに振り回されてきましたが、私の教える魔法省の規定水準では――」
「それで、先生の仰る魔法省の教えって言うのは、現実世界ではどれくらい役に立つんですか?」
怒り心頭のクリスの隣で、ハリーが完全に小ばかにしたような声で問いかけた。ハリーの眼も、アンブリッジを射貫くほど鋭く研ぎ澄まされている。
赤と緑、2つの異なる瞳に睨まれて尚、アンブリッジは笑みを崩さなかった。