第12章 【LOST】
「さて、皆さん、これまでこの学科では大変苦労なさったでしょう?先生がコロコロ変わってねえ。しかもそのほとんどの先生が魔法省指導要領に従っていなかったみたいで……結果、残念なことに皆さんの学力レベルは 『O・W・L』試験レベルを遥か下回っています。でもこれからはご安心を、わたくしが皆様を魔法省認証推定レベルまで引き上げて差し上げます」
アンブリッジは再び黒板に向かうと、杖でコンコンと黒板を叩いた。すると先ほどまで書かれていた文字が消え、新たな文字が浮かび上がって来た。
【授業の目的と課題】
1、防衛の基礎となる原理の理解
2、防衛術が合法的に行使される状況認識の学習
3、防衛術の行使及び実践的な枠組みへの取組み
「さあ皆さん、黒板に書かれていることを羊皮紙に書き写してください」
みんな黙って羽ペンを動かした。静かな教室に、カリカリと羊皮紙をペンで引っかく音が響く。
アンブリッジは教壇から降りて生徒の机の周りを歩きながら、皆ちゃんと言われた通り書いているか確認して回った。
クリスは自分の堪忍袋の緒が、授業終わりまで耐えらるか自信がなかった。
出来れば今すぐこの教室を抜け出し、図書館に“人生の役に立たなさそう”な本を探しに行きたい衝動に駆られていた。その方が、この授業を受けるより何倍も“人生の役に立ちそう”だと思えた。
「それでは皆さん、ウィルバート・スリンクハードの『防衛術の理論』を持っていますか?」
気色の悪い猫撫で声でそう言われると、持っていても返事をしたくなくなる。ぼそぼそと教室の隅から返事が聞こえてくると、またしてもアンブリッジは「チッチッチ」と舌を鳴らした。
「わたくしが質問したら、返事はこうですよ『はい、アンブリッジ先生』もしくは『いいえ、アンブリッジ先生』分かりましたか?お返事は?さん、はい!」
「はい!アンブリッジ先生!!」
「……いいえ、アンブリッジ先生」
クラスの皆がやけくそになって「はい」と答える中、クリスだけ大声に紛れえて正反対の答えを返した。ささやかなる反抗である。そうでもしないと、やってられなかった。