第2章 【癒せぬ傷】
『ほら、お前は要らない存在なんだ』
(違う!違う違う!)
『お前は疎まれている、呪われた子よ』
(黙れっ!)
『お前なんて生まれてこなければ良かったんだ』
(――っ……)
その瞬間、クリスの脳裏に冷たい目をした母の姿がよぎり、心臓がえぐられたような痛みが走ってクリスは目をつぶった。
「クリス?食事が出来――」
「邪魔だ!!消え去れ!!」
「ご、ごめんなさい」
扉の外にウィーズリーおばさんがいると知らず、クリスは思わず声を荒げた。タイミングが悪いにもほどがある。
だがおばさんはそれ以上何も言わず、黙って立ち去って行ってしまった。部屋の前からだんだん小さくなる足音が、クリスの胸に突き刺さる。
「ち、違う――」
クリスは力なく囁いた。
決して傷つけたいわけじゃない。本当は誰かに傍にいて欲しい。それなのに上手くいかない。クリスは独りベッドの上で、膝を抱えてうずくまった。
「もう……嫌だ、誰か助けて……」
しかしクリスはまだ良かった。少なくとも、心をさらけ出せる相手がいる。それはロンでもハーマイオニーでもない。――そう、シリウスだ。
ウィーズリーおばさんがいなくなったと思ったら、入れ替わるように今度はシリウスの声がした。
「クリス?私だ、入るぞ」
シリウスだけは、クリスの心を分かってくれていた。どんな時も下手な態度はとらないし、変に気遣う事もしない。クリスがヴォルデモートの娘だと知っているのに、臆する事も無い。そんなシリウスと居る時間だけが、クリスの心の安らぐときであった。
「食事を持ってきた。一緒に食べよう」
「悪い……シリウス」
「謝るなら、明日の朝一番にモリーに謝るんだな」
やれやれ、と言った風にシリウスが微笑みながら息を吐いた。2人分の食事がのったプレートをベッドの端に乗せると、自分もベッドに腰掛けクリスの頬を撫でた。
「また寝ていないのか?クマが出来ているぞ。美人が台無しだ」
「別に、顔なんてどうでも……」
「リーマスが見たらガッカリするぞ。そうだ、今ここに連れて来ようか?」
「ル、ルルルルーピン先生だけは呼ばないで!!」