第3章 参ノ型. 初任務 ~煉獄杏寿郎の場合~
(知ってる、これは私の記憶。ずっと昔の、)
最後に見たのは湖にうかんだ小さな我が子。
信じたくなくて、どんなに時間を掛けても探し出そうと誓って鬼になったあの日。
思い出したくもない記憶が涙を止めさせてはくれない。
『悲しい人...大丈夫、今すぐ会わせてあげますからね...』
「え...」
呟かれた直後首に感じる温かさに女鬼は目線を動かす。
1mほど後ろに見える自分の体が首を切られたのだと教えてくれた。
不思議と痛みはない。
頭だけになった自分を抱きしめてくれる鬼狩りの腕は暖かくて、何故か懐かしかった。
穏やかな死。
(ああまだ、坊やを見つけてないのに...)
【お母ちゃん】
「あ...」
たった一つの後悔はすぐに溶けた。
鬼狩りの傍に佇みこちらを見下ろす見慣れた姿に、涙がまた零れる。
それは確かに女鬼の子供だった。
何十年ぶりかにみる愛する我が子。
死んでしまったあの時のまま、その姿は幼い。
「坊や坊や、ごめんね気付いてやれなくて...こんなに、こんなに近くにいたのに!」
抱きしめたいのに抱きしめられない、あの時助けられなかった我が子に精一杯語りかければ、
【このお姉ちゃんがたすけてくれたんだ!お母ちゃんにも僕が見えるように!】
「あの、鬼狩りが?」
【うん!お母ちゃんが寂しがってるって教えてくれたんだ!】
【だからお母ちゃん、僕と逝こう。今度はちゃんと手を繋いで、ずっと一緒だよ。もう寂しくないよ。】
朗らかな笑顔でそう言った。
首を切られ崩壊しつつある残った片目をもう一度鬼狩りへと向ければ、先程より優しい顔をして
『探し人は見つかりましたか?』
なんて聞いてくる。
(この鬼狩りは...菩薩のようだ。こんな私に、情けをかけてくれたのか)
残る思考でそう考え一言、
「あり、がとう...」
女鬼はそう告げ消滅した。
女鬼の消滅と共に、その子供も光の粒になる。
子供もまた、女鬼と同じように笑顔だった。
2人が消えた後を見つめながら、刹那は呟く。
『どうか2人、安らかに...』