第2章 弐ノ型. 煉獄家
刹那side
煉獄様の御屋敷はとても広い。
ここは台所、ここは客間、ここは風呂、ここは庭、奥の2部屋は俺と千寿郎の部屋だ。
そう言って全ての部屋を紹介してくださる。
でも、この屋敷はどこか、
(暗く寂しい....)
人は居るのに、灯りはついているのに、
何かが足りない。
ずっと隙間風が吹いているようなそんな気持ちにさせられる。
「ここが父上の部屋だ!」
そう言って立ち止まった部屋からは、外からも分かるほど酒の匂いが香ってくる。
「父上!只今戻りました!報告したい事が!!」
そう言って迷いなく部屋に入る煉獄様の後を、ついて行くべきなのだろうが足が進まない。
ここは嫌だと心が叫んでいる。
開いた隙間から見える煉獄様のお父上の姿を見て、尚のことそう思った。
ずっと敷かれたままであろうくたびれた布団に横たわり、息子が帰還したというのにこちらを見向きもせず
枕元には大小様々な酒が転がっている。
これが親か、いつ死ぬかもわからぬ子を待つ親の姿だろうか....
私は察してしまう。
この広い屋敷を寂しいと感じてしまう原因を。
(この屋敷は...家族の愛というものが、枯渇しているのか....)
「どうした?さあ入りたまえ!」
そう煉獄様に促されるまで私はじっと、ただじっと立ちすくんでいた。
煉獄様は私が横に座ったのを確認して、またお父上の方へと向き直る。
「父上!お館様のご意向により、暫くこの隊士を家に置くことになりました!よろしいだろうか!!」
『暁天 刹那と申します。急な事とは存じておりますが、何卒ご理解くださいまし。』
ハツラツとした声で報告する煉獄様とは対照的に、部屋の主からは重いため息が聞こえた。
「どうでもいい、お前の好きにしろ...」
肯定とも否定とも取れぬ返答。
何故か少し胸が傷んだ。
「...よし!行こう暁天少女!!君が使う部屋に案内せねば!!」
そう言った煉獄様を追い、部屋の外へ出る。
襖が閉まるその瞬間まで、お父上がこちらを見る事は無かった。