第9章 玖ノ型. 母襲来
あの後珍しく怒った千寿郎に
「刹那さんはまだ病み上がりです!皆さんそんなに騒ぐなら別の部屋に行ってください!!」
と言われ皆追い出され別室に押し込められてしまった。
この面子に対してそんな態度を取れるのは、次男と言えど煉獄家の血が受け継がれている証だろう。
部屋を移して暫くしいくらか落ち着きを取り戻した玉藻が煙管をふかしながら、柱達へと目を向ける。
一人一人の力量を探るように見つめ呟く。
「隊士が弱体化していると聞いていたが、そなた達はなかなかに強そうじゃ。だが...」
言って、目の前に居る時透の喉元に刀の切っ先が向けられたのは同時だった。
「まだ甘い。今5回は死んだぞお主。」
目を見開く時透のすぐ側で止まった刀の出処は玉藻の脚。
右脚太ももから下に脚はなく、脚であるはずのそこには日輪刀が植え付けてある。
いつ抜いたのかそれすら分からないが、ゆるりと寛ぐ玉藻の傍らに鞘だけが転がっていた。
刃の長さは丁度玉藻の残された脚と同じで、脚を失ったはずの玉藻が普通に歩けていたのはそのお陰だ。
「その、脚はいったい...」
目の前の光景に驚き声を漏らす胡蝶に、玉藻は
「なに、まだ小さかった娘を守った際鬼にくれてやっただけの事。」
そうあっけらかんと答える。
「母親というのは難儀なものでな、首を切れば良いのにそれも忘れて、ただひたすら娘を抱きしめてやる事しか思いつかなんだ。」
そう言い笑いながら脚を振る玉藻を紫苑が止めた。
「はしたないですよ玉藻様。」
「なんじゃ。存外初心じゃのうお前達は。逢魔を見習え。」
「あの人と一緒にしないでください。」
紫苑の睨みに、ぶつぶつと恨み言を言いながらも玉藻は大人しく足をしまう。