第9章 さよならの定義
晩夏の直射日光が降り注ぎ、うるさいくらいの蝉の鳴き声が響き渡っていた。
任務から高専に戻り自室の部屋から窓の外をぼけっと眺めていれば、聞き慣れた声がした。
「ーーなまえ。ちゃんと飯食ってんの?」
いつの間に入ってきたのか、部屋の中には煙草を加えた硝子が立っていて。
『硝子。…うん、ちゃんと食べてるよ』
「ならいいけどさ。あ、煙草吸っていい?あーでもここで吸うと五条がうっせぇんだよなぁ」
ぶつぶつと文句をいいながらも煙草に火をつけた硝子は、部屋の真ん中にあるソファに腰掛け、ふう、と一息吐きながら続けた。
「…灰原が死んでショックなのはわかるけど、いつまでも塞ぎ込んでたらお前の身が持たないよ」
『……うん、わかってる』
後輩の一人が死んだ。
彼らが向かった任務は、当初はなんてことのない、二級呪霊の討伐任務のはずだった。けれど、いざ現場に後輩達が向かえば、産土神信仰ーー土地神の一級案件だったらしい。実際討伐に向かってみれば呪霊の等級を見誤っていたなんてことは珍しいことではない。そうはわかっていても、後輩である灰原雄の死は、なまえの心に深く爪痕を残した。
けれど、自分なんかよりもきっと、共に討伐に向かった灰原と同期の七海や、そして夏油の方がずっと辛かっただろうと思う。夏油は灰原を可愛がっていたし、灰原も夏油を慕っていたから。
いつか、夏油の言っていた、術師というマラソンゲームの映像の果て、その先にあるもの。彼の言っていた言葉の続きが、その時、なんとなくわかったような気がした。
事件が起きたのは、その直後だった。