第6章 りんどうの唄
「じゃあ俺が慰めてあげなきゃね」
『…っくるしい』
「あったかいでしょ」
『全然あったかくないっ…アンタ薄着だもん』
「じゃあなまえがあっためて」
『…なんでだよばか』
ぎゅ、と背中に回された腕の力が強くなる。背の高い五条に抱き締められても、胸板に顔が当たるだけで視界は真っ黒だった。彼は背が高いクセに細身だから、余計に寒そうに見える。なまえは行き場を失っていた両手を、五条の背中におそるおそる回してみた。
どくどくと心臓の音が聞こえる。自分の心臓の音も聞こえているんじゃないかな、なんて少し不安になったけれど、五条の腕の中は、そんな事が気にならなくなってしまうくらい心地良かった。
『…たまに優しいから余計むかつく』
「いつも優しいじゃん」
『意地悪だよ』
「それは愛情の裏返しじゃん、いい加減気づけよ」
『…わかりづらいよ』
「えー、傑と硝子にはわかりやすすぎって言われるんだけど」
言いながら五条はそっと身体を離すと、優しくなまえの髪を梳くように撫でた。
「これからは毎年ここに報告に来なきゃね。今年もちゃんと最強でしたって」
『…うん。…ありがとうね、五条』
「つぅかいい加減その五条っての辞めろよ」
『…はは、そうだね。……ありがと、"悟"』
俯きながら頬を染めてそう言ったなまえに、五条はきょとん、としてから言った。
「可愛すぎかよ」
『…っはぁ!?』
ひゅう、と吹いた風に、背中を押されたような気がした。
それはまるで、兄が背中を押してくれたみたいに。
『…寒いし、帰ろっか』
「ん」
『ていうかアンタ授業は!?』
「んーサボった」
『はぁ!?それ私のせいじゃん!』
「そーだよ、なまえのせい。だから責任とってね」
『理不尽!』
いつものように言い合いをしながら、ふと、振り返る。
心なしか、兄の安心している顔が見えたような気がして。
―――私、頑張るね。
悟や、傑や、硝子と、肩を並べられるように。
お兄ちゃんと血を分けた、この血に恥じないように。
私は私で、強くなる。そして、貴方の夢を叶えよう。
不思議だ、嘘みたいに肩が軽い。
仄暗かった空の間から、太陽がきらきらと顔を出した。
それはまるで、自分の心を映しているようだった。