第1章 もしも運命があるのなら
「は?せんせー本気?こんなチビと手合わせなんかしたら、間違って踏み潰しちゃうかもしんないよ?」
『は、寝言は寝て言え、お前なんかに潰されるほどヤワじゃねぇよクソメガネ』
「うわ、口悪。傑、コイツ顔だけの性悪だよ」
「辞めろよ悟、聞こえるだろ」
『聞こえてんだよボケ!!』
―――出会いは、最悪だった。
ヒートアップする罵詈雑言の言い合いに、呆れた夜蛾がパンと手を叩く。
「これで一年も四人になった。という事で午後の呪術実習は2-2のペアでやるぞ」
「げぇ。ソレ私も参加すんの?」
「勿論今日は硝子も参加だ。新入生との親睦を深める為だと思え」
「へーへー」
反転術式を得意とする硝子にとって、呪術実習はあまり必要とは言えない。が、それもこの新入生のためかと渋々飲み込めば、その新入生が手を上げた。
『先生、私はこのクソメガネと変な前髪の男とは組みたくありません』
「誰がメガネだよ」
「変な前髪って誰のことかな?」
『オマエら以外に誰がいるんだよ節穴かよ』
「「………」」
顔を見合わせた五条と夏油はすっと立ち上がると、なまえの両脇に立ってその白いほっぺたを両側からつねった。
『イダダダダ、離せクソ野郎!!』
暴れるなまえの両手を、五条はもう片方の手で簡単に拘束し飄々と言った。
「ハイハイ、クソ野郎なんて名前の人はここにはいませーん」
「自己紹介が遅れたね、私は夏油傑」
頬をつねるのを辞め、やんわりと夏油は自己紹介をしてみせた。それに続いて、硝子も口を開く。
「ハーイ、家入硝子。ヨロシク」
「ほら、悟も」
夏油に促され、五条はチッと舌打ちしてから顔を歪めた。
「俺する必要なくない?さっきコイツ名前知ってたし。俺有名人だし」
「いいから。挨拶だろ」
『痛いんだよ、いい加減離せよ!』
自分より随分と小さいくせに生意気な新入生に、五条はぼそっと呟いた。
「……五条悟」
『アンタの名前なんて世界一どうでもいいわ』
「ねぇコイツ殺していい?」
どうやら二人の相性は、最低最悪なようだ。
気が遠くなりそうな若人達の未来への不安に、夜蛾は大きなため息を吐いたのだった。