第3章 午前0時のシンデレラ
爽やかな夜風が、酒で火照った身体に心地よい。あの場から半ば無理矢理連れ出してくれた五条に向かって、なまえは口を開いた。
『さっきあの人になんて言ったの?』
「ナイショ」
『ていうかなんでここがわかったの!?…まぁ、助かったけどさ』
「ならいーじゃん」
店の外に出てからも抱かれている腕をなまえは振り払うと、渋々口を開いた。
『……ありがと』
「ん。つぅか合コンなんて行ってんじゃねぇよバーカ」
五条は言いながら、なまえのおでこに軽くデコピンして見せた。
『痛っ!!』
「俺よりイケメンなんているわけねぇんだからさぁ」
『はぁ?何言ってんの?ほんとナルシストだよねアンタ。あ、硝子に先帰るって連絡しておかなきゃ』
「てことで桃鉄の続きやろ」
『え、またぁ!?』
「オマエ今朝ゲームぶっ壊した貸し①もう忘れたの?あ、ちなみにさっきので貸し②だから」
『うげぇー。てゆうかあそこにゲーム置いてたのわざとなんじゃないの?私に貸しをつくるためにわざと置いてたんだろ』
「ご想像にお任せするよ。つぅか何その髪型、ハリポタにでも出るつもり?オマエじゃハーマイオニーは無理だなチビだしドビーとかいーんじゃね」
『うるせぇな!ドビーバカにすんなよアイツめっちゃいいやつだからな!』
「いやーそれにしてもよかったよ間に合って。あのオニーサンこの珍獣に手出そうものなら大火傷してただろうし。はぁー俺今日もいいことしたわー」
『誰が珍獣だ!ホンッットむかつく』
ぷんぷんと怒るなまえを横目に、五条は安堵したように笑う。もしあの男が彼女に手を出そうものなら、大火傷どころか焼き殺していただろうなんて思いながら、五条はなまえの髪をくしゃりと撫でた。
「もう合コンなんて行くなよ」
『…わかってるよ。身の丈に合わないことはもうしません』
「そうそう、オマエは徹夜で桃鉄やってるくらいが丁度いいよ」
『地獄だな』
あはは、と楽しそうな笑い声が、夜道に響く。
二人のちぐはぐな背中は月明かりに照らされて、いつも通り呪術高専の中へと消えたのだった。