第3章 午前0時のシンデレラ
「―――オイ。何俺の許可なく触ってんの?」
聞き慣れた声。
まさかと思って振り返れば、そこにいたのは―――あの五条だった。
『え……なんで!?』
驚き目を見開くなまえの手を、五条は思い切りぐいっと引いて男の側から離すと、自分の胸に抱き寄せた。
そのままぽすん、と五条の腕の中にすっぽり収まって、細いけれどしっかりとした胸板にオデコが当たる。
「え、君誰?もしかして彼氏?」
廣瀬の言葉に、突然の出来事に動揺して固まって居たなまえは五条の腕の中で慌てて口を開いた。
『はぁ?そんなわけ――』
「帰ろ、"なまえ"」
否定しようとするなまえの言葉を遮って、五条はナチュラルに名前を呼ぶと、腕の中のなまえの顔を覗き込んだ。半ば抱き締められている状態のはずなのに、先程の男に触られた時に感じた嫌悪感はない。鼻と鼻がくっつきそうなほどすぐ目の前で光る、有無を言わさんばかりの五条の長い睫毛に囲まれた大きな瞳に、なまえは思わず頷いた。
『……あ、うん…』
「ちょっと待ってよ。なまえちゃんはこれから僕と」
言いかけた廣瀬は、サングラス越しに殺気を放つ五条の青い瞳にゾッとして言葉を止めた。黙り込んでしまった廣瀬ににこっと微笑むと、五条は彼の耳元で囁くように言った。
「コレ俺のだから。ごめんねオニーサン、大人しく諦めて♡」
「………」
ぽつん、とその場に立ち尽くす廣瀬を横目に、五条はなまえの肩を抱いたまま店を出た。