第2章 魔法にかけられて
「ほら、早くしろよ」
『…はい』
五条の大きな手をそっと取って、立ち上がる。
そのまま腕を引かれて、初めて見るパレードを横目に歩いていく。鮮やかな光で彩られたそれは幻想的で、初めて見る景色に感動を隠せなかった。
『……綺麗』
「綺麗だね」
『こんな世界もあるんだね』
「……また来る?」
『え?』
立ち止まって、思わず隣を見上げれば。こちらをずっと見ていたのか、五条の青い瞳とばっちり目が合った。
『いいの?』
「いいよ」
なんだかやけに優しい五条が、ちょっとだけ格好良く見えた気がした。ほんの少しだけだけど。
「でも次からは勝手にどっか行くなよマジで」
『…はい。ていうか、もう逃げないから、手、放してよ暑苦しい』
「無理」
『………』
ぎゅ、と腕を掴む手の力が強くなったのを感じて。抵抗するだけ無駄だな、と思い知らされる。腕を強い力で握られたまま歩いていれば、五条がぽつりと言った。
「オマエが知らない世界、これ以外にもまだまだたくさんあると思うよ」
『だね。私はちっぽけな世界に住んでたんだなぁ』
「これから見てけばいいじゃん。なんか見たいものとかねぇの?」
『えー、そうだなぁ。お台場の夜景とか?見てみたいかなぁ』
「うわー、庶民的。視野が狭い」
『うっさいよ』
―――あれだけ嫌だった五条との休日も、初めて来れたTDLも。なんだかんだで、ご褒美と呼ぶに相応しい素敵な思い出になったのかもしれない。
「あ、帰ったら桃鉄付き合えよ」
『は?今日は帰って即爆睡だから無理』
「あ”?ふざけんなよ俺をあんだけ走らせといてバックれたらマジビンタ」
『…マジかよ』
五条のマジビンタなんてくらったら、瀕死間違いナシだ。まぁ、でも。今日は付き合ってもいいか、なんて思えてしまうのだから―――やっぱり、慣れって怖いなぁなんてしみじみ実感しながら、ちぐはぐな肩を並べて帰路についたのだった。