第2章 魔法にかけられて
「……ごめん」
『………え?』
目だけじゃなく、耳を疑った。あの五条から、謝罪の言葉が出るなんて。録音、いや録画して、硝子と夏油に見せつけてやりたい。
『まって何聞こえなかったもう一回言って』
「……もう言わねーよバーカ」
拗ねたようにそう言ってから、五条はため息を吐きながらなまえの隣にどさっと腰掛けた。このだだっ広い園内を、息を切らすほど必死に走って探しに来てくれたのだろうか。なまえは軽率な自分の行動に反省して、小さく口を開く。
『……勝手にどっか行ってごめんね』
「…オマエは謝んなくていーよ」
『でも不機嫌にさせちゃったのは私だし』
「……あー、アレはもう忘れて。今回は俺が悪かった」
珍しく素直な五条の横顔を、なまえはまじまじと見つめる。罰が悪いのか白くて長い睫毛は伏せられたままだ。いつも横暴で偉そうで憎たらしい彼にも、こんな一面があるんだななんて思っていれば、こちらを向いた五条とばっちり目が合った。
辺りはもうすっかり夜になっていて、月明かりさえも吸い込んでしまいそうなその青い瞳は宝石みたい。
「もう離れんなよ。探すの大変だったんだから」
『…あ、うん。ごめん』
「電話にもすぐ出ること。ちゃんと携帯を携帯すること。わかった?」
『…うん』
いつもと違う優しい口調に、やけに素直に反応してしまうのが少し悔しい。
「そろそろパレード始まる」
『もうそんな時間なんだ』
「パレード見たら飯食うか」
『うん』
なまえの返事を聞いてから五条は安心したように立ち上がると、未だベンチに座ったままのなまえにすっと手を出した。