第2章 魔法にかけられて
『………ハァ!?』
あまり広くはない教室で、なまえの大きな声がキン、と響いた。
なまえが呪術高専に入学してから、約一か月。彼女の苛立ちは、ピークに達していた。
入学初日に五条とペアを組まされるという悲劇から始まり、何故かその際に呪霊を多く祓えなかった罰ゲームとして夜な夜な五条に桃鉄に付き合わされ常に寝不足状態。五条と夏油に組手を挑むも未だ一度も勝てたことはなく。挙句彼ら二人(9割方五条)にひたすら馬鹿にされ続ける毎日。そんな日々に苛立ち、そして、今しがた夜蛾の口から出た言葉に、彼女の苛立ちはピークどころかキャパオーバーを起こしていた。
――「先日の呪術実習の任務を見事遂行した悟・なまえペアへのご褒美は、コレだ!!」
張り切ってそう言った夜蛾が手に持っていたのは、ねずみを模した世界的キャラクターが描かれた二枚のチケットだった。ひらひらと見せびらかすように揺れるその手が、なまえの怒りを更に駆り立てた。
「TDLのペアチケットだぞ!喜べなまえ!!」
どーんと自慢げにそう言いきったドヤ顔の夜蛾に、なまえは怒りの篭った口調で言った。
『……何にどう喜べって言うんですか?』
「TDL…即ちディズニーランドだぞ!?ティー・ディー・エル!!若人たちへの褒美に、これ以上他に何がある!!」
そこじゃねえ、と言いたい気持ちを飲み込んでから、なまえは盛大に溜め息を吐いた。
一体、これの何処がご褒美だと言うのだろうか。
何が悲しくて、休日にあの五条悟とディズニーランドになんて行かなくちゃならないんだ。ご褒美どころか地獄でしかない。夏油・硝子ペアに課されたペナルティは修練場の掃除だそうで、そっちの方が断然マシである。
そんなことを思いながら、なまえは五条に向かって口を開いた。
『ちょっと、アンタからも何か言ってよ』
「何かって何?」
『アンタも行きたくないでしょ、私とディズニーランドなんか』
「んー、俺は別にいいけど」
『……は???』
五条の予想外の返事に、なまえは目を見開いたまま固まってしまった。