第11章 始まりの青
『よかったね、悟』
ぽつり、と呟いた言葉は聞こえているのかいないのか。生徒達の背中が見えなくなれば、五条はなまえの頭に顎を乗せながら言った。
「なまえー、早く帰ろ。腹減った。あ、そうそうなまえに仙台のお土産あるんだよ、前に食べたいって言ってたやつ。喜久福ずんだ生クリーム味。早く食べたいでしょ?」
『ありがとう。でもお土産でつろうったってまだ帰らないよ、やらなきゃいけないことたくさんあるんだから』
「そんなん明日でいーよ。三日もお預けくらってたんだよ、俺の相手すんのが先でしょ」
『わお、急にオフモード。はいはい、じゃ書類まとめてからねー』
「だからそれも明日でいーってば」
『良くないの。あー、出張の前に冷蔵庫空けてきちゃったし、買い物も行かなきゃ。夕飯何食べたい?』
「なまえ」
『はあ。本当何年経っても相変わらずだな』
相変わらずの五条の様子に、なまえはため息をつきながら笑った。
『ご飯食べた後ね』
「それまで待てない」
『デザートは食後だろ』
「俺は好きなものを先に食べる派なの、よく知ってるだろ」
ぎゃあぎゃあと言い合いながら、昔と変わらないちぐはぐだけれど随分と大人になった背中を並べながら歩く。
時間が経つのはあっという間の出来事で。楽しい事も、辛い事も、全部がどんどん思い出になっていく。そうして、これからの日々も。
自分たちが選んできた道が、進んでいく道が、正しいかどうかはわからない。けれど、これでよかったんだよね、と。
たとえ、明日世界が終わっても。共に落ちた地獄で、笑い合えたら、それでいい。
これからも、君の隣で。
何度生まれ変わろうと、愛という縛りで、共に呪い合おう。共に、永遠に。