第10章 きみの呪いが解けるまで
くすくすと笑うなまえを見つめながら、五条は続ける。
「最初はさ、今日誕生日迎えたらちゃんと付き合ってって告白するつもりだったの。でも硝子との会話聞いて思ったんだよね。なまえが俺のこと好きなんだったら、結婚できんじゃんって」
『そんな軽く一生の出来事を決めていいわけ…?』
「軽くないよ。後にも先にも、俺にはなまえしかいないの。俺の魂がそー言ってる」
『…もう、なにそれ』
「でもこれで俺の本気伝わっただろ?」
『…うん…』
「さ、そうと決まれば早くコレ出しに行こう」
『え、今から!?』
「なまえの気が変わんないうちにさっさと既成事実作んないと」
『あんたこそ私をなんだと思ってるの!!』
「はは、怒ったなまえって可愛いよね」
そう言って楽しそうに笑うと、五条はなまえの手をぎゅっと握ったまま歩き出した。
「これからもたくさん、“僕”がなまえの知らない世界を見せてあげるよ」
五条の口から初めて出たその一人称の言葉の響きに、彼にとってたった1人の親友の姿が頭を過ぎる。
『…僕、ね。なんか、胡散臭さに拍車がかかるな』
「やっぱ変?ほら、もう今日から大人だし?なまえの旦那さんとしてちゃんとしなきゃと思って。これから目上の人間と関わることも、歳下の子達と関わる事も増えるだろうしね」
『……決めたの?』
「うん。"夢"ができたんだ。なまえが似合うって、言ってくれたからね。俺は――…あ、間違えた、僕。んー、やっぱ変?」
『…ふふ。まあ、悪くないんじゃない』
―――優しく繋がれた手は、いつだって私にかけられた呪いのような縺れをそっと解いてくれた。
彼と共に、生きていけるのなら。
私はきっとどんな道も進んでいけると、強く思う。
たとえそれが、地獄のような未来だったとしても。