第10章 きみの呪いが解けるまで
『……私も……私も、悟が好き。……誕生日おめでとう、悟。生まれてきてくれて、ありがとう。出会ってくれて、ありがとう。好きになってくれて、ありがとーー』
一生懸命に言葉を紡ぐなまえのその唇を塞ぐように、五条はふわり、と自身の唇を重ねた。
ずっと、ずっと―――欲しかったもの。
そっと唇を離せば、涙ぐむなまえの大きな瞳と目が合って、なんでこんなに可愛いのかな、なんて腹が立ってくる。愛おしくてたまらなくて、五条はずっと手に持っていた紙を彼女に突き出した。柄にもなく汗ばんでいた手のせいで、紙はわりとくしゃくしゃだ。
「早く名前書いてよ」
『…でも、本当にいいの…?付き合ってたわけでもないのに…それに私達未成年だし、親とかさ』
「俺がここ一週間高専にいなかった理由、まだわかんないの?ほら、ここよく見てよ」
未成年同士の結婚には、親の同意書が必要だ。けれどもうそこにはしっかりと、五条家となまえの親の署名と、押印があった。
「強引だけど呪術連にも許可貰いに行ってきた。ウチ(五条家)はすんなりというかむしろ大歓迎ってカンジ。今度暇な時にでも顔見せに行かなきゃね」
任務も忙しいなか、彼はその合間を縫って呪術連となまえの親と五条家に挨拶に行って、その上婚約指輪まで用意していてくれていたようだ。自分が本気だということを伝えるために。
「一度愛を知ってしまえば、知らない前には戻れない。そんなどっかで聞いたような台詞、ありえねーって思ってたけど、オマエに会って知った。愛ほど歪んだ呪いってないよね。俺がなまえに向けるこの感情はさ、その辺で発生してる呪いなんかよりずっと歪んでると思うよ。だから尚更、伝え方がわかんなかった。意地悪ばっかして怒らせて、ひどいこと言って傷付けて、いっそ嫌われたら諦められんのかなとか思ったりもした。でも、どんな事試しても諦めらんなかったし、今後も諦めらんねぇやって悟ったよね。素直に好きって言えばいいだけなのに、それが言えなかった。多分、初めて会ったあの日から惹かれてた。そしたらさ、いつの間にか自分でもわけわかんないくらい好きになってた。呪いにたとえると間違いなく両面宿儺レベル。いや、ゆうに超えるな」
『…ふふ、強すぎでしょ』