第1章 出逢い (冨岡義勇)
雪を纏った山脈が見える。私は人里離れた山奥に住んでいた。山で木を切りそれを村まで売りに行っている。今日も村まで行き陽が暮れるまで仕事をしていた。
『遅くなっちゃった・・・』
真っ暗い山道を歩く。慣れている山道だった為、明かりをつけずに歩いているとどこかで叫び声が聞こえてきた。
びくっと肩を揺らし、辺りを見回すとまた聞こえてきた。だけど声はかなり遠い。山犬か狼だろうか?と思ったが不気味な呻き声に額から冷や汗を流す。
ーーー人食い鬼
ふと、村で聞いた話を思い出した。陽が暮れると人を食らう鬼が出るらしいと。
馬鹿馬鹿しいと思って聞いていたが、遠くから聞こえてくる呻き声、人の声とは思えない獣じみた咆哮に恐怖し、身体が震え始めた。
早く家に帰ろう!家に行けば親が私を待っている。そう信じて暗い夜道を走り出す。
『はぁ・・・はぁっ!』
山奥といってもこんなに村から家まで遠かっただろうか。空を見上げるが、月と星が見えず雲に隠れていた。 ガタガタと恐怖で震える身体に疲れから足が上手く前に進まない。走るのを止めて呼吸を整えていると何かが私に飛びかかって来たではないか。
『きゃ!?』
「ガァルルルッ!!」
獣かと思ったが、私を地面に押し倒し上に乗ってきたのは見たことも無い男性だった。暗闇のため、野党だと思った私は咄嗟に横腹を思いっきり蹴り飛ばす。
蹴り飛ばされた男性は「ガアアアッ!」と鳴き出すと身を捻って地面を蹴り再び私に襲い掛かって来た。人間とは思えない身のこなしだった。
男性を正面から見つめると口元や両手から血が滴り落ちている。
『人喰い・・・鬼?』
「ガアアアッ!!!」
男は鋭く尖った爪を振り翳して来た。避けられない!と思った瞬間に私の前に黒髪の男性が現れ刀で攻撃を防いだ。いつの間に…気配を感じなかった。
「無事か?」
『は・・・はいっ』
背に“滅”の字が描かれた、黒い詰襟を羽織った男性は私を助けに来てくれたのだろうか。
無事を確認すると男性は刀を携え素早く縦横無尽に斬り刻んだ。その際、一瞬だけ波打つ水が見えた気がした。
『・・・死んだんですか』
血塗れで動かなくなった人喰い鬼と思われる男性の身体と切り離された首を見た私は恐怖から涙を流すと助けてくれた男性は「あぁ」と呟きながら刀に付いた血を布で拭ってから鞘に戻す。