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ふたりだけのせかい

第3章 其の参








「…俺はお袋をこの手で殺した」

「…っ、」




予想もしていなかった言葉が実弥の口から発せられ、思わず視線が実弥の方へと向く。
そこには、何を考えているのか全くわからない様な無表情のままの実弥がいて。

ごくりと生唾を飲み込む。





「…だがそれは間違っちゃいなかったと、俺は思ってる」

「…」

「俺も、俺のお袋を…兄弟を、"本当の意味"で殺した奴に復讐する。ただそれだけを考えて、その為だけに生きてきた」






本当の、意味…?


わからない事だらけだった。
聞きたい事ばかりだった。

だけど、何も聞いちゃいけない。
実弥が私にそうしてくれた様に。


そう思い、きゅっと口を噤んだ。






「誰に何を言われようが どう思われようが、俺のお袋は、兄弟は、復讐なんざ望んでねェと言われようが、そんな事は俺には関係ねェ。…必ず俺が仇を討つ」




今まで静かに話していたその声色に力がこもり、ギリと拳を握りしめるのが目に入る。
自分と同じくらい…否、又はそれ以上の強くて深い憎しみが嫌というほど伝わってくる。



あぁ…この人はやっぱり、本当は泣きたくなるほど優しい人なんだ。
血走る鋭い三白眼のその奥に見えたあの暖かい瞳は、見間違いなんかじゃなかった。



そう、思った。


普通の人ならば、そうは思わないのかもしれない。
だけど、そう思ったんだ。







「…ただ。自分の大切な奴には、復讐なんて考えんじゃねェ、自分なりの幸せを見つけて笑っててほしい…そう、思うんじゃねェかァ」

「っ…」

「一つ言える事は、お前のお袋はお前を恨んでなんかいねェって事だァ」





つい先程までとは打って変わって、何処か優しい声色。
そして、張り詰めていた私の心を溶かすかの様な 暖かい眼差し。





「…ど、うして…そう思うの…?」





つんと鼻の奥が痛んだかと思えば、じわりと目の淵に涙が溜まっていく。
喉が狭くなる様な感覚の中、やっとの思いで発した声は、消え入りそうな程弱々しくて。









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