第3章 其の参
「女、必要以上に俺に話しかけるな。弱い奴は反吐が出る程嫌いだ。俺が此処に居るのは無惨様に命じられたから、ただそれだけだ。」
あの屋敷から出て、まず最初に眉間に深くシワを寄せ 睨み付ける様にしてこちらを見ている猗窩座に言われた言葉がこれであった。
別に何か話しかけようとした訳じゃない。
むしろ、何を言えばいいのかと悩んでいたところだった。
こちらを見る事もなく、名乗る事も 名を尋ねられる事もなく、言い放たれた。
こうもあからさまに嫌な態度を取られてしまうとむしろ清々しいと思える程で。
でも、無惨に言われたからと変に媚びる様な態度を取られるよりもいくらかましだと思えた。
長い長い沈黙が続く、神社までの帰路がこれまでにない程遠く感じたのは言うまでもないだろう。
その後の事は、と言うと。
どうやら母は無惨の血を多く受けていた様で、いくら鬼となって間もなかったとは言え、一人で尚且つ一瞬で首を斬る事が出来たという事は、鬼殺隊の中でもある程度階級の高い者だろうと予測ができるという事。
そして今は復讐すべき相手の顔など、記憶を無くしているが、記憶した状況を再現する事、もしくは其れに近い体験をする事によって、なくした記憶を取り戻すきっかけになる事があるらしい。
だからこそ、鬼と鬼殺隊双方がいる戦いの場へと行く事が一番良いだろうと。
それから最後に、無惨に命じられた事は最後まで責任を持って遂行するが、それ以外は此処へ居る必要がない。
だから、階級の高い鬼狩りの元へ行く時にまた来るとだけ言い残し、すぐに何処か遠くへ飛んでいく様にして消えてしまったのだった。
それがつい一週間前の事。
てっきりもうずっと猗窩座と行動を共にするものだとばかり思っていたから、正直拍子抜けだった。
いつまた猗窩座が姿を現すのか、全く検討もつかず ただ待つ事しか出来ず 然程多くない巫女としての仕事も中々手につかない日々が続いていた。