第4章 04. 狭霧山
[04. 狭霧山](1/1)
焼けつくような喉の痛みと眩暈がする。彼の後を必死で追い掛けながら冷や汗を手で拭き取るとぐらりと視界が揺れ降り積もる雪に倒れ気を失った。
『ーーーうっ!』
掠れた呻き声を漏らしながら重い瞼目をゆっくりと開けると天井が見えた。身体には毛布が掛けられている。高熱に魘され恐ろしい夢を見たような気がする。
ーーーあれは、本当に夢だったのだろうか。
視界の果てまで累々と死体が転がっていたような…そんな地獄のような光景を思い出し、吐き気が込み上げてきた。
『うぇ・・・っ!』
口元に手を当てて咳を数回繰り返す。自分がどのくらい眠っていたのかさえもわからない。
『お母さん・・・お父さん・・・』
いるはずの母と父を呼ぶが返事がなく姿も見せない。どうしたのだろうか?不安になりゆっくりと布団から上半身だけを起こすと腕に激痛が走った。
『ーーーっ!』
その痛みで全てを思い出した。
『そうだ・・・私は・・・あれは夢じゃなかった?』
小刻みに手を震わせ恐怖と悲しみから涙を溢しながら呟くと障子戸が開かれた。
「気がついたか」
涙で視界が揺らぐ。顔を上げると黒髪の男性ーーー冨岡義勇が鋭い瞳でこちらを見つめていた。彼は私に近付き布で額の汗を拭いてくれる。
『・・・っ』
どうやら高熱を出して倒れた私を運んできてくれたらしい。その話を聞いた私は一瞬目を見開いた。人間を喰らう鬼に対して恐怖も痛みも感情も無いような瞳の彼が私を看病していてくれていたのだ。
『・・・助けて下さり有難うございました』
「・・・いや」
頭を下げると彼は驚いたのか目を見開いていた。どうやら私がお礼を言うとは思っていなかったようだ。
『あの・・・ここは?』
「狭霧山だ」
彼は淡々と話をしてくれた。師匠であり育手である鱗滝左近次という男性が麓に住んでいる山だそうだ。
「お前はここで水柱の継子になってもらう」