第4章 送られオオカミ【R18】《義勇》
早く
帰らなければ
本能がそう言っている気がした。
畳の上にコトンと音を鳴らしてコップが落ちる。
中に少し残った水が畳に零れ小さな水溜まりを作った。
気がつけば富岡の丹精な顔が近くにありみさの鼓動はドキリと跳ね上がる。
富岡に腕を引かれてこの状態になったのであろう。捕まれた腕が痛くて みさは顔を歪ませた。
「…っ!!」
反射的に富岡から離れようとその胸板を押し返すがぴくりともしない。
追い討ちを掛けるように腰を引き寄せられるとビクリと身体を強張らせた。
「と、富岡さん!」
そのまま片足を掴まれて引っ張られ、 みさは富岡の上に座るような体制になる。
心臓がバクバクと音を立てうるさい。
「…っ、冗談が過ぎます。富岡さんっ」
富岡を睨み付ければ、
藍色の瞳はいつもとは違う何かを秘めてギラリと光る。
「 桜田」
息が掛かる位の距離で名前を呼ばれて、 みさはゾクリと身体を震わせた。
「富岡さん、お酒臭いです。…酔いすぎです。」
出来るだけ冷静に、
言葉を発したつもりが語尾が震える。
彼に惹かれているのは確かだけれど、
こんな形でこんなことになるのは本望では無いのに。
お酒に酔った勢いだけかも知れない。
富岡は覚えて無いかも知れない。
まさか、こんな事をする人だと思わなかったのに。
失望と怒り。
そんな感情が みさを支配していた。