第1章 スイッチ【R18】《伊之助》
深い闇に包まれる夜更け
しんと静まりかえり、ふくろうの鳴き声しか聞こえない。
みさは、うとうとと夢の世界に誘われていた。
「みさ!!」
あまりにも大きな声に
みさは勢い良く起き上がる。
声の主を探すとベッドの横に仁王立ちした猪の被り物をした少年の姿。
「伊之助…!静かにしてっ!!」
シーッと口の前に人差し指をかざす。
「みさ!ご褒美貰いに来たぞ!!」
ずいっと顔を近付けてくる伊之助にみさは慌てて猪の被り物の口を塞ぐ。
「皆起きちゃうから…!」
ここはしのぶ亭、治療班の離れである。
交代で治療に当たることも少なくないスタッフがいつでも休めるように、一つ一つの部屋は離れているがこんな馬鹿でかい声を出して聞こえない訳が無い。
「あなた、起きて平気なの?ちゃんと昼間はベッドで寝ていた?」
「ちゃんと寝ていたぞ。みさが寝ていたらご褒美くれるって言うから」
えっへん!と得意げな伊之助。
伊之助は大怪我をしてしのぶの屋敷に運ばれてきたばかりなのだ。
伊之助の寝巻きの甚平の胸元には血の滲んでいる包帯が見える。
更にあばら骨は砕けて薬で甦生させている最中だ。
破天荒で言うことを聞かない伊之助のしのぶ亭での世話役はみさしか居ないと、他の怪我人を見ていても伊之助の元へ回される。
しかし今日は怪我人が多くて伊之助のそばにずっといる訳にもいかず、ちゃんとベッドで寝ているようにと言い聞かせたのだった。
伊之助は猪の被り物を勢い良く脱ぎ捨てると、みさを押し倒す。
ベッドがギシリと音を立てた。
「だ、駄目…伊之助」
覆い被さってくる伊之助の胸板を力一杯に腕をぴんと張って押し返す。
「傷、ちゃんと治って無いし…」
治ったら、ね?と伊之助に言い聞かせる。
「待てない。みさに触りたい。1ヶ月も会えなかったんだ。」
今回の任務は確かに長かった。
やっと会えたと思ったらこんな大怪我を追って…
隙を見て口付けを迫って来る伊之助の唇を両手で塞ぐ。
綺麗なオリーブ色の鋭い瞳と目が合う。
自分に欲情しているであろうその目に、ドキリとする。
「駄目。私は治療班なの。隊員の療養が第一なんだからっ」
「全く強情だな。でも、みさのスイッチの入れ方知ってるぞ!」
…スイッチ?