第3章 近くて遠い恋[山崎side]
「でも驚いたな、結衣ちゃんが真選組に入ったときは」
『…そうですね、あの頃は刀なんて握るのも怖かったですし…ましてや一番隊に配属されるなんて夢にも思わなかったですよ』
「それは俺も驚いた」
でも、と続けて結衣ちゃんは再び空を見上げた
『それもこれも…みんな平河隊長のおかげなんです』
「…」
『私が真選組に入ろうと思ったのも、局長や副長の反対を押し切ってまで私を真選組に入れようとしてくれたのも…みんなみんな彼のおかげなのに…。そんな彼が今ここに居ないなんておかしいと思いませんか?』
「結衣ちゃん…」
結衣ちゃんは誰よりも心から平河隊長を慕っていた
だけど平河隊長は2年前のビル爆破事件で崩壊する建物の中、攘夷浪士に斬られた
もちろん結衣ちゃんもその事件現場に居合わせていた
俺たちは他の隊士たちを救出する為、崩壊する建物の中に入った
爆破の影響で燃える建物、そしてその煙の中俺は見たんだ
全身血まみれで倒れた平河隊長とその傍に返り血を浴びて座り込んだままの結衣ちゃんの姿を
「平河隊長!結衣ちゃん!!」
慌てて駆け寄るが二人からは何の反応もなかった
息をしていない彼を結衣ちゃんはただ見つめていた
人、仲間が死んでいく姿は今まで何度も目にしてきた
それでも俺たちは前を見て生きていかなきゃいけない
でも結衣ちゃんが初めて目にした人の死は、彼女の最も大切な人だったんだ
「結衣ちゃん!ここは危ない、出よう」
『…』
半ば強引に腕を引っ張り立たせ、急いで外に出た
その後平河隊長の遺体は回収され、彼女は俺と局長達と共にパトカーで病院へ向かった
「結衣、怪我は大丈夫か」
副長の言葉に結衣ちゃんは静かに頷き窓の外を見つめた
「あ、そうだ結衣ちゃんこれ!」
そう言って彼女の刀を差し出すと
『いやッ!!』
彼女は刀から目を背け肩を小刻みに震わせた
「もしかして…怖いの?」
大切な人が目の前で死んだというトラウマで彼女は刀を握ることが出来なくなってしまった
『うっ…うわぁああッ』
そのとき初めて結衣ちゃんは大声を出して泣いた