第5章 No.5
私は帰る前に、自転車部の練習を少し覗いてから行こうかなと思った。
細いチャリに乗って、学校の外を走っている。
ロードバイクの「シャーーー」という車輪の音は何故か心地よく感じ、嫌いではなかった。
昔尽八から聞いたことがあった。
直線を走ってスピード勝負する人たちを「スプリンター」、坂道を早く登る専門の人たちを「クライマー」、両方をこなせる人を「オールラウンダー」というらしい。
尽八のこないだ言ってた新開が出る大会の話を聞くとどうやら新開はスプリンターというやつだ。
尽八は「山神」って自分で言ってるから恐らくクライマーか。どうでもいいけど。
自転車部の練習がよく見えるとこまで来たけど、新開の姿はなかった。
(なんだ、新開がいないか…)
あんまりジロジロみてるのも怪しいから、帰ろうかなと思っていた瞬間…
新開「あるるるる…!」
雄叫び声みたいなのが聞こえた。
私には分かる、それが新開の声だと。
聞いたことの無い鬼みたいな声だった。
校門の方に目を向けると、新開と、まつげの長い男子が猛スピードでこちらに向かってきていた。
「え…あれが新開隼人…。」
めちゃくちゃ早かった。
そして普段の新開とは大違いだった。
後ろを歩く女子たちは、
「え、なにあの人怖くない?」
「鬼みたい…」
そう言ってたけど、私は鳥肌が立った。
(かっこよすぎる…)
また新開隼人にやられた。
確かに鬼のようだったけど、ゴールに向かって一心で自転車のペダルを回してる姿が男らしくて私は好きだった。
ゴールってそんなに大事なの?
練習なのにそんなに本気になれるの?
しばらく私はその場から動けずにいた。
本日二度目の、新開の所為で動けない現象。
やめよ、これ以上好きになる前に、帰ろう。